80代男性 急性硬膜下血腫 もの忘れ 高次脳機能障害という明確な判断はないも後遺障害12級13号が認定されたケース

交通事故で頭部を受傷してものわすれの症状が出た被害者のご家族の方へ

交通事故で頭部を受傷し、直後の意識障害が一定程度続いた場合、事故前の被害者の様子とは違う、おかしいということがあります。この「違う」という様子は以降もずっと続くおそれがあります。

その中の代表的な症状として、ものわすれ、記憶障害 というものがあります。
脳が物理的に損傷し、その症状として、高次脳機能障害が発症し、その症状として、ものわすれ、記憶障害が生じた可能性があります。

そうすると、交通事故の後遺障害の問題として対応していく必要があります。
つまり、症状に見合った後遺障害等級を目指し、適正な賠償金を獲得し、将来的に被害者及びそのご家族にとって少しでも助けになるように動いていく必要があります。

ところが、被害者の様子が、事故前と「違う」ことは、被害者本人には自覚がありません(高次脳機能障害の場合、病識に欠けるからです。)。
主治医の先生は事故後の治療で初めて被害者と対面することがほとんどですから、事故前の被害者の様子を把握されているわけではありません。
そうすると、「違い」に気づくには、ご家族が頼りだとお考えいただいた方がよいと思います。

ご家族の方でも、被害者の様子に疑問を持たれたら、当法律事務所の無料相談をご遠慮なくご利用ください。

 

被害者、事故状況

年金収入のみの男性(事故時80代)が被害者でした。
被害者は、自転車に乗り、直進中の道路を右へ進路変更したとき、後方から走行してきた四輪車の左前が被害者の自転車の右側面に衝突するという交通事故でした。

片側一車線の道路でしたが、衝突により被害者は頭部を四輪車のフロントガラスに強打し(フロントガラスはくもの巣状に割れました。)、自転車もろともそのまま対向車線の路側帯まで持っていかれ、地面に転倒しました(転倒地点には血痕がついていました。)。

 

事故から4カ月目くらいまでのCT、MRI画像診断(左側頭部急性硬膜下血腫)

被害者は近くの総合病院に救急搬送されました。
すぐに頭部CTが撮られ、左側頭部急性硬膜下血腫 と診断されました。
手術はなく、救命で縫合されたあとは脳神経外科へ転科となりました。
被害者は2週間ほど入院されることになり、その後は外来通院となりました。

●  急性硬膜下血腫

 高次脳機能障害が認定されるためには、頭部外傷を示す傷病(脳挫傷などいくつかあります)が、医師の先生によりCTやMRIなどの画像所見が得られたうえで確定診断がなされることが条件になります。
急性硬膜下血腫は、高次脳機能障害になりえる傷病名のひとつです。
後で述べますが、本件では、急性硬膜下血腫が生じた部位、左側頭部と物忘れの症状が整合することが後遺障害認定のポイントになりました。

事故から3週間後には頭部MRIが、その後も、定期的に頭部CTが実施されました。血腫はある程度ひきましたが、しばらくは変化なく、4カ月目くらいにはさらに血腫は縮小したという所見でした。

 

被害者の意識障害の程度、神経心理検査

●  意識障害の程度

 自賠責保険で高次脳機能障害として後遺障害等級が認定されるためには、頭部外傷後に意識障害が長時間継続していることも条件になります。

 目安はJCSが3~2けた、GCSが12点以下が少なくとも6時間以上続いているか、JCSが1けた、GCSが13~14点が少なくとも1週間以上続いていることが確認できることです。

 JCSやGCSとは意識障害の評価方法のことです。くわしくは当法律事務所のご相談で説明しますが、JCSは意識がはっきりしていると0点となり、そうでないほど点数が上がり、GCSは意識に問題がないという満点は15点となり、そうでないほど点数が下がります。

被害者のカルテ上の意識障害の経過は以下のとおりです。

・事故現場で救急隊が到着したとき JCS-10
(刺激によって覚醒する状態です。)
・入院時 JCS:Ⅰ-2
(日付が答えられませんでした。)
・その後、GCS:E4V4M6の14点が続く
(見当識が正常でなく会話が混乱しているという状態です)
・入院約6時間後 GCS15点(意識に問題がないという点数です)
・その直後、被害者は病院に来た息子さんにつじつまのあわない会話をしており、その後も、JCSがⅠ-1、GCSがE4V4M6の14点が続きました
(日付が答えられなかったようです。ただし、一度は15点と評価されているときがありました。)。
・入院中から被害者には神経心理検査も実施されていました。具体的には、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、MMSE、RCPMという各知能テストやFABという遂行機能検査が行われました。HDS-Rの検査結果は、総合で半分程度の点数しかなく、日付で2点も減点されることが続きました。

●GCSの問題点

上記の高次脳機能障害の条件からすれば、本件は、JCSが1けた、GCSが13~14点が少なくとも1週間以上続いていないことになります。自賠責保険で何度も後遺障害非該当になった理由の一つでした(自賠責は、前述HDS-Rの結果を重要視しませんでした。)。

ただし、後述する意見書をご作成いただいた脳神経外科医の先生曰く、GCSはベッドサイドで患者にそれほど負担をかけることなく簡便に行える反面、月日のみの確認を何度もすることで患者が短期的に正答を記憶してしまうので正当な評価がしづらい難点もある旨指摘されています。

弁護士金田はカルテを確認し、本件でもこのような弊害があったのではという疑問を今でも持っています。

 

事故から4カ月後にSPECT検査(画像検査)を実施

事故から4カ月目には、脳神経外科的に特に施すことがないと言われた被害者ご家族は、病院と話をした結果、同じ病院の脳神経内科で治療を受けることになりました。
被害者の息子様は、かねてから事故後に明らかな記憶障害の悪化があると訴え続け、事故から4カ月目に主治医の先生がSPECT検査の実施を指示されました。高齢ゆえ認知症との鑑別を行うという目的もありました。

●SPECT検査

 かんたんにいいますと、体の機能や病気の活動性などをしらべる画像検査です(CTなどは体の形態や構造をしらべる検査になります。)。
SPECTで脳血流量の検査をします。

 本件では、このSPECT検査で血流の低下が認められたことが後々後遺障害等級認定につながりました。

SPECTの結果、脳の血流低下がうかがえるとのことで、アルツハイマー型認知症ではないと考えられるとの所見であり、頭部外傷に後遺障害の可能性を指摘されていました。

なお、被害者ご家族は症状固定から1年後にこの病院の脳神経内科に経過の診察と神経心理検査を受けに行かれましたところ、症状固定時と変わらない失点の成績であったとのことでした。この成績を踏まえて、主治医の先生は、もしアルツハイマー病のような進行性の疾患であればテストの結果が悪化し、病状は進行しているはずだと指摘されたとのことです。
ですので、被害者の症状は頭部外傷によるものと考えるのが妥当ということになります。

 

当法律事務所の無料相談、弁護士受任

上記のような治療経過をたどりましたが、結局、病院からは治療としてもうすることがないと言われ、被害者と同居しておられる被害者の息子様が当法律事務所の無料相談におこしになりました。弁護士金田は、事故状況、おおまかな治療経過、症状の様子などをお聞きしました。
息子様は、今後の後遺障害の申請が難しそうだとのことで、当法律事務所のホームページをご覧いただき、お問い合わせいただいたとのことでした。

被害者のご自宅は京都市でしたので、弁護士がご自宅にうかがい、被害者とお会いしました。
被害者のご様子ですが、普通に会話ができますので、事故後に初めて、かつ、短時間お会いした程度では様子がおかしいかどうかがわかりません。
もちろん、被害者ご自身に病識はありません。
ですが、息子様によれば、事故前にははなった物忘れなどの症状があるとのことでした。
当法律事務所がご依頼をお受けし、後遺障害等級認定申し立ての準備にとりかかることになりました。
弁護士費用特約の適用があるケースでした。

病院同行

頭部外傷後の症状に関しては、主治医の先生が被害者の症状についてどのようにお考えであるのかを確認する必要があると思い、息子様に事前に病院にご連絡いただき、後遺障害診断の診察の日に弁護士が病院の脳神経内科に同行させていただけることになりました。

症状固定日は事故から6カ月目でした(高次脳機能障害かどうかを判断するケースでは少し症状固定が早いとは思いましたが。)。

被害者ご家族からは事前に整理していただいた症状を医師の先生にお伝えいただきました。弁護士からは画像所見や神経心理検査の結果などをお聞きしました。
そのうえで、医師の先生には、以下の書類の作成をお願いいたしました。

・後遺障害診断書
(神経心理検査結果資料の添付もお願いしました。)
・頭部外傷後の意識障害についての所見
・神経系統の障害に関する医学的意見
※上記3種類の書類と、後述する日常生活状況報告書は、高次脳機能障害の後遺障害等級認定を受けるためにはかならず必要になるものです!

 

日常生活状況報告書の作成など

被害者ご家族には、日常生活状況報告書の作成をお願いしました。
その後、画像も含めた資料がそろい、当法律事務所は自賠責保険に後遺障害等級認定の申し立てをしました。

そのほか、他の放射線科医の先生にもご協力いただき、頭部の画像鑑定書を作成していただきました。
画像鑑定書には、主治医の先生のご見解同様に脳SPECT画像で血流低下が指摘されていたほか、事故直後より脳溝の開大が強く、脳室拡張も認められ、脳委縮の進行があるようである旨の指摘もありました。

 

初回の等級認定結果は非該当でした

●高次脳機能障害として後遺障害等級が認められるための条件(要件)

1、画像所見
上で述べたとおり、外傷により頭部が物理的に損傷したことを示す画像所見と確定診断が必要になります。
それだけでなく、事故から経過してから撮った画像においても外傷性の異常所見(たとえば、脳委縮の進行、脳挫傷痕の残存などの脳実質の損傷)が認められることが必要となります。

2、意識障害の程度、期間

これも上で述べたとおりです。

上記1、2が認められたうえで、被害者の日常生活の状況を、日常生活状況報告書や神経検査などをふまえ、後遺障害等級の判断がなされていきます。

 

【 後遺障害非該当の理由 】
硬膜下血腫が縮小していっており、脳委縮の進行や脳挫傷痕もなく画像上の異常所見がない。
受傷7~8時間後に意識清明になっており、頭部外傷後の意識障害が長期間継続していたものとはとらえがたい。
よって、本件事故による脳外傷にともなって高次脳機能障害が生じ、残存したものとはとらえがたい。

 

後遺障害等級異議申し立て

等級非該当の結果は被害者の現状とかけ離れたものでしたし、主治医や放射線科医の見解ともかけ離れた点があり、受け入れがたく、異議申し立てをすることになりました。

【 異議申し立て 】
初回の非該当理由を意識して異議申し立てにのぞむことになります。
以下の準備を行いました。

・入通院先の病院のカルテ取り寄せ
確認すると、事故後1週間以内のGCSが2回ほどフルスコア(満点で異常なしの意味になります。)のところがあったのですが、前述のとおり、何度も日付を聞かれて短期的に答えを覚えた可能性があるのではと思いました。他方、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の検査結果は、総合で半分程度の点数しかなく、日付で2点も減点されることが続いていることがわかりました。

・協力医の脳神経外科医の先生に意見書の作成をお願いいただく
意見書では、事故直後と事故後5カ月目の画像で脳室を測定され脳室の拡大が認められる点、脳溝が開大傾向にあり脳室拡大が脳委縮によるものである点、意識障害に関し、GCS評価の難点を指摘され、時間と場所の見当識については長谷川式簡易知能評価スケールの方が正確な評価を行うことができ、これを参考にするべき点が指摘されていました。

上記2つの新しい資料を中心に異議申立書も作成し、異議申し立てをしました。
しかし、また結果は変わらず非該当でした。

【 非該当の理由の骨子 】
事故当日のCTで急性硬膜下血腫等の急性期の外傷性の異常所見が認められていることからすると、事故日の脳室や脳溝の状態との比較をもって、脳室の拡大や脳溝の開大が認められると評価することは困難であること。
GCS評価上、受傷7~8時間後に意識清明となっていることから長谷川式簡易簡易知能評価により意識障害が長期間継続していたものととらえることは困難である。

上記内容はカルテの記載を線でとらえて総合的に評価されたとは考え難く、また、意見書の内容と相反するものであり、到底承服できるものではありませんでした。
上記非該当の理由を見て、被害者ご家族とも相談のうえ、自賠責保険・共済紛争処理機構に不服申し立てをする方向になりました。
しかし、上記非該当の理由を踏まえてまだ出しておきたい資料がありました。

この機構は新しい資料を出すならまず自賠責に提出してほしいと言われるので、再度自賠責に異議申し立てをすることにしました。

【 再度の異議申し立て 】
まず、意識障害の点については、事故前・事故後の被害者のエピソードをまとめた息子様ご夫婦の陳述書を作成していただき、弁護士金田も意識障害に関する文献を準備しました。
また、画像に関して、弁護士金田は、事故当日の画像の様子からすれば、この画像をその後の画像との比較対象にしても差し支えないことを主張するための引用医学文献も準備しました。

上記の新しい資料を中心に再度の異議申し立てをしましたが、自賠責保険は再度非該当の判断をしました。
前回審議の前提となった事実関係を変更するに足る新たな申立てがあったとは認めらないというのが理由でした。目的は自賠責保険・共済紛争処理機構への不服申し立てですので、自賠責が、今回、形式的な理由で非該当にする見込みであろうことはあらかじめ被害者ご家族にはお伝えしており、これは想定内でした。

 

自賠責保険・共済紛争処理機構への不服申し立て

これまでに自賠責保険に提出した資料を全て提出して、賠責保険・共済紛争処理機構へ不服申し立てをしました。

結果は、後遺障害12級13号が認定されました。

【 認定理由の骨子 】
事故当日に認められた左側頭部の硬膜下血腫は経時的に撮影されたCTでほぼ消失している一方、SPECT画像では、側頭葉は左右非対称であり画像上左側頭葉に血流の低下がうかがえたこと。
左側頭葉は言語中枢があり、その部位が損傷を受けると言葉の記憶や理解の能力が障害されることがあるとされるところ、左側頭部の硬膜下血腫・左側頭葉血流低下があり神経心理検査においてそのような所見に整合する言語性記銘力低下が認められることから、もの忘れは頭部外傷による症状ととらえられること。
具体的症状としては新しいことを覚えられない、正確に行動を遂行できない程度が軽度であり、自転車や徒歩で近所に出かけられることを総合考慮して後遺障害12級13号に該当する。

この後遺障害認定判断にしたがい、自賠責保険から224万円の支払いを受けることができました。

 

相手方任意保険会社と最終示談交渉

その後、相手方任意保険会社との最終示談交渉も当法律事務所がご依頼をお受けすることになりました。

80代の被害者は年金収入のみで生活されていたため、休業損害や後遺障害逸失利益は発生しないことになります

弁護士金田は以下のとおり追加で204万0412円を請求しました。

【内訳】
・入院雑費追加分             1万4052円
・入院付添看護費(全15日分)      9万0000円
・通院付添看護費(全11日分)      3万3000円
・文書料等                1万8360円
・傷害慰謝料             132万5000円
( 入院計15日、通院計11日、通院期間5カ月半)
・後遺障害慰謝料             280万0000円
ただし、自賠責保険から支払を受けた224万円を引く

示談交渉の結果、最終で200万円余りの支払いを受ける合意ができました。
ほぼ当方からの請求額での解決でした。
しかも、被害者の過失減額をしない解決ができました。

結局、弁護士加入後、被害者は、424万円の賠償金を獲得したことになります。
弁護士費用と実費は全額弁護士費用特約でまかなえましたので、上記金額は全て被害者にお渡しすることができました。

 

弁護士金田からひとこと

このケースは、相手方任意保険会社担当から、後遺障害が認定されるのは難しいケースだと言われました。確かに、かなりの困難を極めましたが、弁護士金田と被害者のご家族が一緒に頑張って後遺障害12級を勝ち取ったケースです。

 このケースは高次脳機能障害であると明確な認定はありませんでしたが、他の高次脳機能障害案件にも通じるものがあります。

 頭部外傷・高次脳機能障害事案も弁護士金田におまかせください。