自保ジャーナル2119号80頁~掲載 鎖骨骨幹部骨折 自賠責後遺障害14級も裁判で後遺障害12級が認定されたケース

(令和4年11月17日原稿作成)

 

交通事故後遺障害等級に不服がある場合

 

 交通事故でケガをして症状や状態が残った場合、1級から14級まである自賠責保険の後遺障害等級の申し立てをすることができます。

 

後遺障害等級の申立ての流れ

 

 相手方任意保険会社または相手方自賠責保険会社(以下、たんに「自賠責保険会社」といいます)に必要資料を送ります。

 

そこから、 損害保険料率算出機構自賠責損害調査事務所に提出された資料が送られ、この調査事務所が調査をし、申し立てた件が後遺障害 等級が認定されるべきケースかどうか、認定されるべきとされたケースについて何級が相当かの意見を受け付けた相手方任意保険会社や自賠責保険会社に送られます。

 

その後、必要資料を送った相手方任意保険会社か自賠責保険会社から結果の通知が被害者に送られます。

 

後遺障害等級結果に納得がいかない場合はどうするか?

 

方法としては、後遺障害等級に異議を述べることになりますが、以下の3とおりの手段があります。

 

① もう一度相手方任意保険会社または自賠責保険会社を窓口として後遺障害等級結果に対する異議申し立てをする 

 

②(一度は①の手続を行うことが原則になりますが)自賠責保険・共済紛争処理機構に不服の申し立てをする

※①とは別の機関により判断されることになります。くわしい手続はここでは省略いたします。

 

③ 民事裁判を申し立てる

※裁判で、被害者が、後遺障害何級と認定されるのが正当だと主張し、これに基づき後遺障害に関係する損害を計算し、請求することになります。

※より正確に言いますと、後遺障害逸失利益は労働能力喪失率は何%が正当だ… 後遺障害慰謝料は何百万円、何千万円が正当だ… という主張をすることになります。

 

本件被害者は…

 

自賠責保険会社に後遺障害関係資料を送って申し立てをしましたが、14級の認定にとどまりました。

その後、上記①や②の手続をせずに③の裁判手続に移ることになり、裁判の判決で後遺障害12級が認定されました。

 

事故状況

 

概略をのべますと、被害者(40代男性運送業会社員)はバイクで通勤中、目前の停車四輪車が突然Uターンをして進路をさえぎられたため、転倒、負傷しました。

 

●過失割合…事故現場がUターン禁止場所であり、被害者の過失はなしの事案です。

 

治療状況

 

被害者は病院に救急搬送され、CT検査をされた結果、鎖骨骨幹部骨折の診断を受けました(左右いずれの骨折かは省略いたします。)。

 

●鎖骨骨幹部骨折(さこつこっかんぶこっせつ)とは

鎖骨のうち、くびもとでもなく肩付近でもない部分をいいます。

骨折した部分のズレの程度(=転位といいます。)が大きかったため、体内(鎖骨の上の部分)にプレートを入れて固定をする手術が行われました。

被害者は40日ほどの入院となり、退院後もリハビリを継続されました。

骨折した鎖骨の骨のくっつきが進まなかったため、主治医の先生の指示により、超音波治療機器(セーフス)を借りて自宅で使用することにもなりました。

しかし、折れた骨は十分にくっついた状態にはなりませんでした(骨癒合一部不完全)。 そのため、プレートも抜かずにそのまま体内(鎖骨上部)に入れたままとなりました。

 

当法律事務所の無料相談、弁護士受任

 

被害者は、今後どうしたらいかわからず、当法律事務所にお問い合わせいただくところまでたどりつきました。

お聞きすると、治療についてはもう区切りをつける段階に来ているとのことでした。

弁護士金田は、事故状況、CT画像、残っている症状(患部の痛みやしびれ、骨折した側の肩関節の可動域制限がありました)や状態などをお聞きし、確認し、後遺障害のことをご説明し、近日中に後遺障害診断を受けて後遺障害等級の申請から始めるということでご依頼をお受けすることになりました。

 

自賠責保険の後遺障害等級…14級9号でした

 

主治医の先生に後遺障害診断書をご作成いただきました。

本件は通勤災害でもありましたので、自賠責保険の後遺障害申請だけでなく、労災保険の後遺障害(障害給付)の申請もすることになりました。 ですので、それぞれの様式の後遺障害診断書をご作成いただくことになりました。

 

●労災保険の後遺障害等級結果

 

本件では、まず、労災保険の後遺障害等級の申請をしていただくことになりました。

申請先は管轄の労働基準監督署になります。

労災保険後遺障害の認定では、労災協力医の面談があります。本件も面談があり、自覚症状の聞き取りや肩関節の可動域の測定がされました。

結果、骨折した鎖骨の側の肩関節が他方に比べて4分の3以下に制限されていたということで、肩関節機能障害の後遺障害(障害等級)12級が認定されました。

 

●自賠責保険後遺障害等級認定結果

 

次に、自賠責保険の後遺障害等級申請を、弁護士金田が代理して行いました。

自賠責保険は書面と画像による審査となり、医師面談はありません。

結果は、骨折部などの痛みやしびれが残った後遺障害として14級(9号)が認定されるにとどまりました。

鎖骨骨幹部骨折については、提出の画像上、骨折部は明らかな変形を残さず癒合(ゆごう)が認められており、高度な肩関節可動域制限(後遺障害診断書上、肩の外転という運動は、受傷していない肩関節の2分の1の可動域しかありませんでした。)が生じるものとはとらえがたいということで、肩関節の可動域制限は否定され、痛み・しびれといった神経症状が残った後遺障害12級(13号)についても骨折部分に明らかな変形がないということで認められませんでした。

 

●自賠責保険と労災保険の後遺障害等級が違う結果になることはあるのか?

 

自賠責保険の後遺障害等級認定制度と労災保険の後遺障害等級制度(障害給付)では、後遺障害診断書に記載される内容は同じ(になるはずです)ですが、結果が異なることもよくあります。

結果が異なる場合、弁護士金田の経験上、労災保険の方が上位後遺障害等級に認定されていることが多いです。ただし、傷病によっては自賠責保険の後遺障害等級の方が上位認定されることもありますので、このような傷病に関する業務中又は通勤中の交通事故に関しては十分に注意が必要です。

労災保険はケガが第三者によるものか、そうでないかを問わず、被災した方を保護するというのが趣旨であり、自賠責保険は第三者によってケガをさせられた被害者の保護が趣旨であり、それぞれ制度趣旨が異なるという理由付けを自賠責保険によってされたことを弁護士金田は経験しております。

ですので、労災の等級判断が先行した場合、労災がどのような等級を認定したかは自賠責保険ではあてにならないと考えておいた方がよいと思います。

 

裁判で後遺障害等級を主張する

 

弁護士金田がCT像を見ても、折れた鎖骨骨幹部は明らかに正常な形をしていませんでした(ただし、外見上は明らかに変形しているとまではいえないというのが主治医の先生の見解でした。)。本件では、この点を十分に考慮していただきたかったのですが、自賠責保険は明らかな変形はないとの判断でした。

 

この、最初の自賠責の後遺障害等級認定結果を見て、弁護士金田は、これ以上自賠責保険に後遺障害等級の異議申し立てをしても、自賠責保険は絶対に後遺障害14級の判断を変えないだろうと思いました。

 

(以下はあくまでも私見ですが)自賠責保険の後遺障害等級というものは別表第一の第1級1号から別表第二の第14級9号まで(「相当等級」というものもあります。)一つ一つ認定される条件が明確に定められており、これら一つ一つの条件にあてはまらないと自賠責保険は後遺障害を認定しません(このような認定手法になっている理由についてもおそらくこうだろうとは思っていますが、ここでは省略いたします。)。

本件の被害者の鎖骨骨幹部は、被害者の外見上はっきりした変形があるという主治医の先生の評価はないもの、の明らかに正常な形をしておらず、このような形になっている原因が骨癒合が十分ではないという状態です(骨癒合が全く得られていない状態でもありません。)。このような場合に、はっきりあてはまる後遺障害等級の類型がなく、痛みやしびれが残っている場合には後遺障害14級(9号)しかあてはまりません。

後遺障害等級類型にあてはまるものがないので、自賠責保険はもう判断を変えてこないと思ったのです。

 

しかし、被害者の肩関節には可動域制限が残っていることは事実であり、骨折部などの痛みやしびれが続いていることも事実でしたし、このような痛みやしびれは来れた鎖骨の骨の状態が十分に関係していると考えられるケースでしたので、ここであきらめるわけいにはいきませんでした。

被害者も同じ気持ちでした。

 

そうすると自賠責保険の判断に不服を主張することになりますが、上の①の方針はとれないということになります。

上の②の方針も、一度は①の手続を踏まえることが前提になりますのでとれないということになります。

よって、③の裁判で正当な後遺障害等級を主張する方針をとることになります。

被害者とも相談し、裁判を提起することになりました。

 

裁判では痛み、しびれが残った後遺障害12級13号が認定されました

 ※以下の金額は千円以下省略いたします。

 

裁判では、受傷した鎖骨の側の肩関節の可動域制限が残ったという後遺障害12級6号か、骨折部等に痛み、しびれが残った後遺障害12級13号かのいずれかが認定されるべきという主張をし、元本1024万円と遅延侵害金の請求をしました。

こちらからは、交通事故受傷後・手術前と症状固定時に撮影された鎖骨のCTの写真を提出して、骨折部分が明らかに正常な形をしていないことを主張したり、画像鑑定報告書と意見書とを、それぞれ異なる協力医の先生にご作成をいただけましたので、これを裁判で提出したりしました。

また、被害者は、症状がずっと続いていたこともあり、症状固定時から約9ヶ月半後に再度主治医の先生の診察を受けられ、鎖骨のCT検査も実施されましたが、骨折部分のくっつき具合(骨癒合状態)は依然として一部不完全な状態でした。この状態も画像をふまえて裁判で主張をしていきました。

もちろん、労災保険の後遺障害に関する資料も、労働局から入手し、裁判で提出しました。

相手方側とは後遺障害等級、労働能力喪失率・期間に争いがあったため、裁判は判決となりました。

 

●判決の結論

受傷した鎖骨の側の肩関節の可動域制限は認定されませんでした。

 

しかし、骨折部分の痛み、しびれ(=神経症状)については、以下の点などが指摘され、後遺障害12級13号が認定されました。

 

・痛み、しびれが一貫して存在すること

・カルテ上、骨折部分の骨のくっつき(骨癒合)の程度と痛み等の訴えとの間に関連があることをうかがわせる記載があること

・こちらから提出した画像鑑定報告書には、骨折部のくっつき(骨癒合)が一部不完全であることが、この骨折部分の痛みの原因となっている可能性が十分にあると考えられるとの記載があること

・こちらから提出した意見書には、骨のくっつきが十分でない場合、圧痛(おさえたときの痛み)や遷延する痛み(痛みが長く続くこと)は極めて一般的な所見であるとされていること

・こちらから提出した意見書によれば、鎖骨骨幹部骨折をプレート固定した際に、皮神経としての鎖骨上神経の損傷が起きることによって、鎖骨周囲のしびれ感を認めることがあるとされていること

 

 

●判決で認められた損金額について

後遺障害逸失利益という損害費目については、14%の労働能力喪失が10年間続くと認定され、389万円が認定されました。

後遺障害慰謝料280万円が認定されました。

入通院慰謝料は、入院39日、通院期間280日190万円が認定されました。

トータルでは、元本710万円 の支払いが認められ、遅延損害金も含めて774万円の賠償金の支払いを受けることができました。

被害者は、上記金額以外に、休業損害については裁判前に既に支払いを受けており、労災保険からは休業補償や後遺障害の補償を含め合計219万円の支払いを受けておられました。

 

ひとこと

 

もし、後遺障害14級のままの結論なら、認定金額は大幅に下がる結論になります。

交通事故のけがの問題(特に後遺障害が関係する問題)では、被害者側の弁護士は、被害者がより救済される方向性を見いだしていけるよう、段階ごとに、悩み、考えていかなければならないことを少しでもご理解いただければ幸いです。