腓骨(ひこつ)骨折 偽関節 後遺障害12級8号解決事例 後遺障害認定の落とし穴に注意!

(令和4年5月25日原稿作成)

 

脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)の骨折

 

四輪車との交通事故によりバイクに乗っていた被害者(30代男性会社員)は転倒し、脛骨と腓骨の骨幹部を両方骨折するという重傷を負いました。

 

脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)…ひざから足首までの間には2本の長い骨があり、そのうち内側にある太い骨を脛骨といい、外側にある細い骨を腓骨といいます。

 

骨幹部とは長い骨の中央部分という意味でご理解いただければと思います。

 

被害者は救急搬送された病院に入院となり、脛骨にも腓骨にも髄内釘(ずいないてい:骨折部位を固定するために骨髄内に入れる釘のこと)を入れる手術が行われました。

 

しかし、MRSAという菌に感染し、腓骨の髄内釘もこれに感染したため、腓骨骨折の骨癒合(=骨がくっつくことをいいます。)を待たずして、間もなく抜釘(ばってい:ここでは髄内釘を抜くことです。)をしなければならなくなりました。

 

腓骨はこれ以上の治療はされない方針となりました。

 

病院の担当医の先生は異動があり、途中で交代となりました。

 

脛骨の骨折は骨癒合(ほねがくっつくことです)し、髄内釘は抜釘となり、その後間もなくして症状固定となり、後遺障害診断書が作成されました。

 

当法律事務所の無料相談

 

被害者は、作成された後遺障害診断書の内容がこれでいいのかを不安に思われ、まだ後遺障害診断書を保険会社に提出せずに手もとに持ったまま、当法律事務所にお問い合わせいただき、無料相談にお越しになりました。

 

お聞きしたところ、どうも交代後の担当医の先生と十分なコミュニケーションをとることができていなかった印象を受けました。

 

脛骨と腓骨だけでなく、その下部にある足首の関節の周囲も骨折していたのですが(足首骨折は受傷当初から傷病名がついていましたが。)、交代後の担当医の先生はほぼ脛骨の骨折しか見ておられなかったということで後遺障害診断書には全く記載がありませんでした。

 

また、自覚症状も、後遺障害診断書には、骨折した腓骨部分よりも下の部分の痛み、しびれ、知覚鈍麻が記載されており、腓骨の骨折部分の痛み・しびれなどの症状が十分に伝わっていない印象でした。

 

腓骨骨折部は偽関節となっている旨の記載はありました。

偽関節(ぎかんせつ)…折れた骨がくっつかず、関節のように動くことをいいます。自賠責保険では、骨折をした部分が2つ以上の骨に分かれ(2つに分かれたそれぞれの骨を「骨片(こっぺん)」といいます。3つ以上に分かれた場合についてはここでは省略いたします。)、この骨片同士が全くくっついていない状態を「偽関節」として認めています。つまり、骨片同士が少しでもくっついている部分があると、自賠責保険は偽関節と認定しません。

 

どうも、後遺障害診断書は、もう少し確認した方がよさそうな内容でした。

後遺障害等級の問題が終わっても、相手方損保会社との示談交渉のこともあり、弁護士金田がご依頼をお受けすることになりました。

 

医師面談

 

無料相談後に被害者の腓骨の画像も見まていただきましたが、最初の手術後に撮影されたのはレントゲン画像のみで、しかも、腓骨を骨折した部分は、画像上は一部分がくっついているものばかりでした。つまり、これが、自賠責保険上「偽関節」と評価される骨の状態なのかどうかも疑問がありました。

 

後遺障害診断書の内容のこともありましたので、主治医の先生にお話をうかがおうと思い、入通院先の病院に被害者と同行することにしました(この同行は平成29年末のことです。)。

 

すでに確定診断がなされていた足首の関節周囲の骨折について、主治医の先生は、異動によりこの病院に赴任され、途中からしか被害者を診ておられなかったこともあり、後遺障害診断書に記載できないとのご見解でした。

 

腓骨骨折部分の痛み・しびれなどが残っている点に関しても確認しましたが、主治医の先生は追記されませんでした(後にカルテを取り寄せましたが、腓骨骨折部分の痛みやしびれはカルテに明記されていました。)。

 

腓骨が偽関節が画像上確認できるのかどうかについても、これ以上画像を撮影する必要はないとの主治医の先生のご見解でした。

 

このように、けんもほろろの状態で病院を後にせざるを得ませんでした。被害者とお話をし、仕方なく、まずは、この後遺障害診断書をもとに自賠責保険に後遺障害等級認定の申請をすることにしました。

 

初回の後遺障害等級認定結果…後遺障害14級9号

 

骨折した下腿部のしびれなどの症状につき、後遺障害14級9号(=痛みなどの神経症状が残った後遺障害)が認定されたにとどまりました。

 

腓骨骨幹部の偽関節について、自賠責保険は、提出の画像上、骨癒合は得られており(←骨がくっついているという意味です。)、偽関節を残したものとは捉えがたいという理由で認定されませんでした。

 

後遺障害等級の異議申立ての準備活動

 

最初の後遺障害14級の結果を受けて、被害者と相談をしました。被害者は別の病院で受診されることになりました。

 

その病院では、腓骨のCT検査が実施されました(必然的に脛骨も撮影されることになりますが)。

また、痛みやしびれなどの症状もありましたので、腓骨の神経伝導検査という検査も実施されました。

 

CT検査…骨折を診る場合、体の部位を数ミリ単位の断面で撮影しますので、折れた部分の骨の内側(語弊があるかもしれませんが)まで確認することができます。さらに、コンピューター処理をするCTは、3D処理をし、立体像の形にして画像化することができます。この立体化した画像は、横方向もたて方向も360度回転させて骨の状態を確認することが可能になります。

 

 

CT検査の結果、折れた腓骨骨幹部の骨片同士は全くくっついていないことが確認できました。

つまり、自賠責保険の運用において、腓骨の骨幹部は「偽関節」が残っている状態です。

 

 

実は、被害者の腓骨骨折は、レントゲンの正面像では偽関節に見えず、CT像の、ある角度でみたら偽関節がはっきりわかるという状態だったのです。

 

 

遺障害等級認定にはいろんな落とし穴があります。とるべき画像がとられておらず、これを被害者側が知らずに進めていったがために、症状に見合った損害賠償が受けられなくなるおそれというのが本件の落とし穴でした。

落とし穴にはまらないことを防ぐのが弁護士の仕事です。

つまり、弁護士が、受傷した傷病名から残存する可能性のある後遺障害を想定していき、その見極めのためには何が必要なのかを心得ておく必要があるということです。

本件では主治医の先生にお話をしてもどうしようもなかったため、後遺障害等級異議申し立てのステージで注力せざるを得ませんでしたが、初回の等級認定申請の際に、するべきことをきちんとしておくのが望ましいです。

 

 

異議申立書の作成

 

腓骨の骨幹部に骨折後の偽関節が残っていますと、「長管骨に変形を残すもの」(後遺障害12級8号)に該当します。

 

長管骨=文字どおり、長い管(くだ)状の骨のことで、脛骨や腓骨などがこれに該当します。

 

「長管骨に変形を残すもの」にあたるかどうかについて、いくつかの条件のうちの一つにあてはまればいいのですが、そのうちの一つに「腓骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもの」という条件があります。

 

ゆ合不全を残すとは、上記で述べた「偽関節」の状態になっていることを指します。

 

上記CT検査画像をふまえ、異議申立書を作成しました。

 

被害者の腓骨骨幹部が偽関節になっていることはCT画像を見ると明らかでしたので、この点に関しては手短に述べるにとどめました。

 

ただし、被害者の骨折部分に痛みやしびれなどの神経症状が残っているのであれば、異議の主張はここで終わらないことが大切です!

 

被害者の骨折部分から遠位(=ここでは骨折した部分から足首という意味です。)にかけて、痛みやしびれが残っている点も再度評価し直されるべきという主張を異議申し立てでしておきました。

異議申立書にそえて、CT画像のCD-Rなどを自賠責保険に提出しました。

 

腓骨偽関節の損害賠償上の落とし穴 ~後遺障害逸失利益~

 

脛骨と腓骨は下肢の骨ゆえ、体の支持機能(体重を受け止めて体を支える機能)をにないますが、体重を支えているのはほとんど脛骨であるという医学文献があり、これをもとに、単に腓骨の偽関節だけでは、体の支持機能に影響しないから後遺障害逸失利益は発生しないという主張を損保側からされることがあります。

 

無論、このような理屈には異論がありますが、この点はここでは措き、腓骨骨折偽関節部分に痛みやしびれなどの神経症状が残っているのであれば、日常や仕事上で支障が生じているはずなので、後遺障害逸失利益という損害の主張がよりしやすくなります。

 

ですので、骨折した骨の状態だけでなく、痛みやしびれがあれば、それをきちんと主張していくことが必要になります。

 

後遺障害等級の異議申立結果…後遺障害12級8号が認定されました

 

異議申立の結果、自賠責保険は、新たに提出したCT画像上、腓骨骨折の偽関節が認められ、「長管骨に変形を残すもの」(後遺障害12級8号)に該当すると判断しました。

 

また、自賠責保険は、しびれや知覚鈍麻などの症状については、上記後遺障害12級8号に含めて評価することになると判断しました。

 

後遺障害12級が認定されたことで、被害者は、自賠責保険から合計 224万円 の支払いを受けることができました。

これでやっと相手方損保と最終示談に入ることになりました。

 

示談が決裂して裁判(訴訟)になり、裁判上の和解成立により解決

 

示談交渉をしましたが、相手方損保の提示金額は低く、これ以上話合いの余地がないとのことでしたので、民事裁判を提起することになりました。

 

裁判では自賠責保険や相手方損保からそれまで支払われた金額を除く 710万円 の支払いを受ける和解が成立しました。

 

以下、主な損害費目について説明いたします(過失割合については物損段階と同様被害者15%となりました。)。

 

後遺障害逸失利益…463万6535円

腓骨の偽関節に由来するしびれなどの神経症状が主に考慮されました。

症状固定後の被害者の収入には減少はなく、逆に増収となりましたが(ただし、これは本人の努力によるものでした。)、上記金額を前提とする和解案が出されました。

傷害慰謝料…210万0000円

後遺障害慰謝料…280万0000円

大阪の裁判基準の金額です。

 

被害者は、裁判での710万円のほか、自賠責保険から後遺障害12級が認定されたことで224万円の支払いを受けていたので、弁護士金田受任後合計 934万円 の賠償金を受けることができました。

 

 

交通事故で骨折を受傷した被害者の方へお伝えしたいこと

 

骨折後の後遺障害の問題を検討する際、画像が最も重要になります(もちろん、手術で医師の先生が患者様の体内を見て直接異常所見を確認されたようなケースでは、その所見が最も明白ですが。)。

 

骨折のケースでも、痛み、しびれ、感覚がおかしいといった症状があれば、それを担当医の先生にきちんと伝えておくことは、後々の後遺障害の問題において大切になってきます。

 

実際にある痛みよりもやわらかくカルテに記載されていたら、裁判で本来認められるべき損害額が認められないおそれがあります。

 

お悩みの交通事故骨折受傷者の方は、当法律事務所にお問い合わせください。