第12胸椎圧迫骨折 変形 後遺障害8級認定後 2164万円を獲得

(令和4年1月10日原稿作成)

 

頚椎、胸椎、腰椎の圧迫骨折

 

頚椎(くびの骨)、胸椎(背中の骨)、腰椎(こしの骨)は、脊椎(せきつい)といいますが、交通事故の衝撃で、これらの脊椎が圧迫骨折をすることがあります。

 

脊椎(背骨)圧迫骨折に関係する後遺障害とは?

 

大きく分けて以下の3つが問題になります。

 

圧迫骨折をした脊椎(脊柱ともいいます。)の部分に変形が残った場合6級5号、8級相当、11級7号といった後遺障害があります

 

脊椎に運動制限が残った場合(可動域の数値以外にも認定される条件があります。)6級5号、8級2号といった後遺障害があります

 

脊椎の荷重機能に障害が残った場合(認定には条件があります。)6級相当、8級相当といった後遺障害があります

 

 

ただし、以下の点があれば、早めに主治医の先生にお伝えください(重要です。)。

折れた部分に痛みやしびれが伴うことが多いです。

特に胸椎や腰椎の圧迫骨折では、体がきつくて長時間の歩行が困難になったり、家でも体を横にする時間が多くなったりすることはないでしょうか。

骨折の程度によっては、脊椎の中を通っている脊髄(せきずい)という神経にも影響が及び、脊髄障害(まひ、感覚の障害、排尿・排便障害など)が生じるおそれがあります。

圧迫骨折後に、日常生活や仕事で支障が生じることがありますが、具体的にどのような支障が生じるのかを整理しておくことが大切です。

 

脊椎(背骨)を骨折するような事故状況だったか?

 

当法律事務所がご依頼を受けた、今回ご紹介する事故の被害者(50代女性)は、乗っていた自転車に、後方から四輪車の左前部が追突し、いわゆる「だるま落とし」のような状態となり、おしりから地面に落ちるという交通事故にあいました。

 

被害者は救急搬送された病院に入院することになりました。レントゲン検査の結果、第12胸椎圧迫骨折と診断されました。

 

胸椎は12個からなり、腰椎は5個からなりますが、第12胸椎とは、胸椎の中で一番下の位置にあり、そのすぐ下には第1腰椎(腰椎の一番上の骨です。)があります。

 

構造上、胸椎は後ろ側に弓なりに曲がっており、腰椎は前側に弓なりに曲がっています。第12胸椎は、そのような方向の違うわん曲のつなぎ目にあり(これを胸腰椎移行部といいます。)、外部からの力(=応力)が集中しやすい部位になります。

自転車に乗っていた状態から、おしりから地面に落ちれば、第12胸椎にに大きなエネルギーが加わり、骨折をするおそれがあることは容易に想像できるといえます。

 

したがって、本件は、第12胸椎圧迫骨折を受傷するほどの事故状況であったといえます。

 

圧迫骨折の特徴 ~事故後に骨折した椎体(骨)が圧潰する可能性がある~

 

被害者の症状や日常・仕事での支障について判断していくといっても、レントゲン、CT、MRIなどの画像上で異常所見があることが前提です。

 

初診で骨折の有無については、まず医療機関のレントゲン検査で確認することになると思います。

 

ただし、圧迫骨折は、骨折した椎体(骨)の圧潰(=力がかかり、つぶれること)が進行する場合があります。

 

先ほど述べたとおり、第12胸椎は外部からの力が集中しやすいので、圧潰が進行していないかどうかを引き続きレントゲン画像を撮られ、確認していくことが重要になります。

 

さらに、できるだけ早期にMRI検査を実施していただくことが重要になります。

 

早期にMRI検査を実施していただく理由は、その骨折が新しいものか古いものかを見極めることができる可能性があるということもありますが、骨折した骨が圧潰の原因となり得そうな所見(信号変化)がうかがえる可能性もあるからです。

※画像の実施については、主治医の先生のご判断、ご指示に従ってください。

 

本件被害者のケースは、事故翌日(まだ入院中でした。)に胸椎のMRI検査が行われ、T1強調像という種類の画像で、第12胸椎に低信号変化がはっきりしていました。

 

被害者は、救急搬送先の病院を退院した後も、近くの整形外科医院にリハビリ通院することになり、その医院でも、定期的に胸椎のレントゲン検査が行われました。

 

レントゲン画像上も、やはり、第12胸椎の圧潰が進行していることがわかりました。第12胸椎の骨の前部の高さが後部に比べてかなり減少しました。

 

 

せき柱に中程度の変形が残った障害 ~後遺障害8級相当が認定~

 

被害者はリハビリを継続されましたが、結局、症状固定となり、後遺障害診断書が作成されました(入院約2週間、通院期間約8ヶ月)。

 

後遺障害診断書の他覚所見欄

以下の記載がありました。

第12胸椎 楔状変形 前14mm 後30mm 
第12胸椎中心に後彎変形

※ 自覚症状欄は、腰部、背部、臀部の痛み 、長時間の座位困難 という記載がありました。

 

 

後遺障害等級認定結果

第12胸椎圧迫骨折後の変形について、画像上、1個以上の椎体(=本件では第12胸椎のことです)の前方椎体高(=椎体の前部の高さのことです)が減少し、後彎が生じているものと認められ、
せき柱に中程度の変形を残すものとして後遺障害8級相当であると認定されました。

腰や背中などの痛みはこの後遺障害等級に含んで評価されることになりました。

 

※ せき柱が変形して後遺障8級相当が認められる条件とは?

いくつかのパターンがありますが、本件に関係するものだけを挙げます。

●せき柱(=頚椎、胸椎、腰椎のこととご理解ください)が圧迫骨折等を生じ、1個以上の椎体(ここでは、頚椎、胸椎、腰椎の一つ一つの骨のこととご理解ください)の前方椎体高が減少すること
●減少した全ての椎体の後方椎体高(=椎体の前部の高さのことです)の合計値から減少した全ての椎体の前方椎体高の合計値を引いた値が、減少した全ての椎体の後方椎体高の1個当たりの高さの50%以上となっていること

この高さの計測は、医師の先生がレントゲンなどの画像上で行われます。

 

本件で圧迫骨折を生じたのは第12胸椎のみで、この第12胸椎の前方椎体高は、画像上減少しました。そして、さきほど述べた後遺障害診断書の記載のとおり、第12胸椎の前が14mmに、後ろが30mmでしたので、この数値を前提にして、上の条件にあてはめてみますと、30mm-14mmが16mmになり(=減少した全ての椎体の後方椎体高の合計値-減少した全ての椎体の前方椎体高の合計値)、これが減少した全ての椎体の後方椎体高の1個当たりの高さ(30mm)の50%以上となっていますので(16mm÷30mm=0.533→約53%)、数字上、せき柱変形後遺障害8級の条件をみたすことになります。

 

経験上、自賠責保険は、レントゲンなどの画像も確認したうえで後遺障害診断書に書いてある数値が妥当かどうかを検討、判断します。

 

結局、自賠責保険は、本件につき、後遺障害8級を認定しました(ただし、胸腰椎の可動域制限での後遺障害認定ではありません。)。

 

この後遺障害8級が認定されたことにより、自賠責保険から819万円の保険金の支払いがありました。

 

圧迫骨折は後遺障害逸失利益という損害項目が争われやすい

 

後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ったことで将来的に労働能力が失われる点を賠償するという損害項目です。

圧迫骨折を受傷し、せき椎の変形により後遺障害が認定されても、相手方損保側から、労働能力への影響はない、又は少ないという主張がなされることがよくあります。

 

本件被害者に関しては家事労働の後遺障害逸失利益を請求することになるのですが、相手損保会社が、痛みが残った後遺障害程度の労働能力の喪失しかないという主張をし、示談で合意ができませんでした。

 

そこで、被害者と相談をし、交通事故紛争処理センターへ紛争処理の申し立てをすることになりました。

 

最終解決

 

交通事故紛争処理センターでは、被害者側から、以下の点をメインに主張していきました。

背中や腰に痛みが続いており、全く良くなっていないこと

体幹の支持機能に支障が生じている現状があったこと

家事労働に支障が生じていることを具体的に主張すること

 

さらに協力医の先生に意見書を作成していただき、提出しました。

 

結果、審査において、相手方が被害者に対し、上記819万円や休業損害などの既払金を除き、1345万円(金額は千円以下省略しております。)を支払うのが相当である旨の裁定がされました。

 

後遺障害逸失利益の認定額は1152万円(金額は千円以下省略しております。)でした。これは、賃金センサス388万円(金額は千円以下省略しております。)を前提にした計算でした。

ほか、傷害慰謝料は150万円、後遺障害慰謝料は830万円と認定されました。

自賠責保険から819万円の支払いとあわせると、2164万円の支払を受けたことになります(休業損害の支払いは除いた金額です。)。