交通事故 人工肛門造設 後遺障害7級 裁判和解で2240万円から7000万円にアップした事例

(令和3年5月14日原稿作成)

経過

 

トラックのとの衝突により(実際はさらに当事者がいて複雑なケースですが、ここでは省略いたします。)、歩行者(年齢性別秘匿)が受傷した交通事故でした。

 

この事故により被害者は肛門管の裂傷などを受傷しました(他の傷病については省略いたします。)。この受傷により肛門狭窄(こうもんきょうさく:肛門がせまくなることです。)が生じ、人工肛門造設(人工肛門をつくる)の手術が行われました。

何とか肛門機能の回復を望み、肛門管を拡張を図る手術(肛門形成術)と人工肛門閉鎖の手術が施行されました。しかし、肛門狭窄が進行し、再度、人工肛門造設の手術が行われました。時が経過し、医学的に肛門機能の回復が見込めないと判断され、結局、肛門を完全閉鎖する直腸切除術が行われました。

治療終了となり、後遺障害診断書が作成されました。

 

後遺障害等級認定結果

人工肛門を造設した場合

人工肛門を造設した場合、おなかに排泄口が新しく作られることになりますが、この排泄口のことをストーマといいます。そして、このストーマにパウチという便をためる袋を着けて、排便を管理していくことになります。
ところが、ストーマのまわりに皮膚のびらんが生じてひどくなり、パウチ管理が難しくなることがあります。

 

労災保険では、人工肛門造設の後遺障害については以下のとおりとされています。

 

1、人工肛門を造設した場合、大腸の内容物が漏れることによりストーマ周辺に著しい皮膚びらんが生じ、パウチ等の装着ができないもの … 後遺障害5級3号(胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの)

2、人工肛門を造設した場合で上記の1に該当しないもの … 後遺障害7級5号(胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの)

 

自賠責保険も、このような労災保険の認定条件にしたがった認定がなされると思われます。

※ただし、今後人工肛門を閉鎖する可能性があるのかどうかについて、後遺障害診断書に記載がなければ、後遺障害等級認定手続で、自賠責保険損害調査事務所が関係医療機関に追加調査をする可能性があります。

 

後遺障害7級の認定

 

本件人工肛門の造設ですが、後遺障害7級が認定されました。

本件は、自賠責保険調査事務所から医療機関に対し問い合わせ(医療照会)があり、医療機関からは、人工肛門の閉鎖予定についてはなし、皮膚びらんの有無についてもなしとの回答があったようです。
手術内容なども踏まえ、上記後遺障害7級5号の認定要件を満たすと判断されました。

このように、後遺障害等級が認定されたとしても、示談交渉や裁判で損害賠償の話をするとき、身体に残った後遺障害が仕事をするうえでどのように影響しているのかを、被害者側がていねいに説明していかなければなりません。
人工肛門を造設した場合にどのような仕事上の支障が生じるかについて、ここでくわしく述べることは控えますが、弁護士金田は本件の裁判でかなり細かく主張していきました。

 

当法律事務所の無料相談・ご依頼を受ける

 

その後、相手方任意保険会社から被害者に対し、最終示談金の提示がありました。被害者はその提示内容に疑問に思われ、当法律事務所にお問い合わせいただき、無料相談にお越しになりました。

 

最終示談の提示金額は、治療費などの支払い済みの金額を除き、2240万円(1万円単位四捨五入した金額です。)の提案でした。
さらに、この提示金額は、歩行者である被害者の過失割合を60%としたものでした。

 

弁護士金田は事故状況や治療状況などをお聞きし、

・本件は、車よりも歩行者の過失の方が大きい事案ではない
・相手方の提示金額はかなり低い

と思いました。

当法律事務所が依頼を受け、損害賠償の交渉をすることになりました。

 

示談が決裂して裁判に

 

依頼を受け、示談交渉を行いましたが、金額自体が高額であるため、双方の金額にへだたりが大きく、まとまりませんでした。

被害者とご相談した結果、裁判(訴訟)提起をすることになりました。

 

裁判提起

 

本件は相手方(被告)とする方がもう1件ありましたので、被告2件として裁判をすすめることになりました。

被告側は、事故状況、過失割合、症状固定時期、後遺障害の労働への影響(後遺障害逸失利益)など、多くのことを争ってきました。

こちらからは、医学文献を含む多種の文献や裁判例を証拠で提出したほか、争いとなっている事故状況に関しては、事故現場に一緒におられた被害者の知人の方に事情をお聞きし、その方に陳述書をご作成いただき、裁判で提出しました。
また、症状固定時期に関しては、治療をご担当された外科医の先生に面談のお時間をいただくことができ、弁護士金田がお話をお聞きしました。そのうえで医師の先生には意見書をご作成いただけました。これも裁判で提出いたしました。

 

裁判での和解成立

 

裁判では、裁判所から和解案が出ました。それまで支払い済みの金額を除き、被害者がトータルで 7000万円 の支払いを受けるという和解案でした。この案で和解が成立し、裁判が終了しました。

 

各損害について

 

和解案の中で認定された損害のうちのいくつかをかんたんに説明します。

 

将来の治療費(通院交通費も含めて)
  
症状が固定した後も、人工肛門に関しては医療機関に年1回ほど通院が必要でしたので、この将来に必要となる治療費とその通院のための交通費を請求しました。
金額としては非常に少額の請求になりましたが、和解案では認定されていました。

将来の消耗品購入費

人工肛門のケア用品として、パウチ、テープ、皮膚保護剤、ガーゼなどの消耗品が将来にわたりどうしても必要になります。裁判ではこの点も主張していき、和解案では総額300万円が認定されていました。

後遺障害逸失利益

人工肛門を造設した場合の仕事上の支障や不利益について、弁護士金田は、被害者からくわしく事情をお聞きするなどし、裁判でくわしく主張していきました。

結果後遺障害7級の標準労働能力喪失率56%、67歳までの労働能力喪失を前提とした金額が和解案で提示されました。

過失割合

被害者の過失が20%という和解案でした。当初の相手方の主張は被害者の過失が60%というものでした。一千万円単位の損害額になるケースで、この過失割合の差が、金額的にも大きな差になったことがおわかりいただけると思います。

 

ひとこと

 

後遺障害にはたくさんの類型があり、まれにしか発生しない類型もたくさんあります。

弁護士金田は、そのまれなケースも取り扱いますので、ご遠慮なくご相談ください。