交通事故紛争処理センター審査・裁定事例(後遺障害14級)
(令和8年10月8日原稿作成)
本件は、交通事故直後から当法律事務所がご依頼を受けた頚椎捻挫、腰椎捻挫(いわゆる、むちうち事案)受傷案件であり、頚椎捻挫関係も腰椎捻挫関係も後遺障害14級9号(併合14級といいます。)が認定されました。
しかし、示談が決裂し、交通事故紛争処理センターへ申し立てをしたものの、センターでの第一段階(あっせん手続)でも相手方が拒否し、第二段階(審査手続)の裁定が出て解決にいたったケースです。
本件は交通事故紛争処理センターを利用したので、本件加害者本人は任意自動車保険(共済)契約をしていたということになりますが(加害者がこの契約をしていなければ、被害者は交通事故紛争処理センター手続を利用することができません。)、この加害者が契約していた任意自動車保険(共済)法人のことはこれ以上くわしく述べず、加害者側を単に相手方と言うことにいたします。
事故状況
被害者は大型バイクに乗り、相手方四輪車に続いて走行していたところ、前方から来た四輪車との離合が困難と思った相手方四輪車がいったん停止した後(このとき被害者バイクも、その後方で、相手方四輪車と一定距離をあけたうえで停止しました。)、後退して被害者バイクに衝突し、被害者はバイクもろとも転倒しました。
■本件は被害者過失ゼロのケースです
被害者は一定距離を空けて停止していたところに相手方四輪車が後退してきました。被害者としては衝突をさけるために左にハンドルを切るぐらいしかありませんでしたが、それでも相手方四輪車はブレーキをかけることなく後退して被害者バイクに衝突し、バイク前輪が持ち上がって地面から浮いた状態となった後、左側に転倒したという事故状況は、被害者において衝突をさけることは不可能であり、何ら落ち度のない事故ですので、被害者の過失はゼロになります。
本件でも、相手方は被害者の過失ゼロについては争いませんでした。
救急搬送で病院へ
この交通事故で左側に転倒し、被害者は、大型バイクと地面にあしをはさまれた状態になるとともに、体を地面に打ち、救急車で病院に搬送されました。
■本ケースでは特に被害者が救急搬送されたことは重要な事実になります
相手方は、事故から208日目まで治療費の支払い(任意一括対応といいます。)をしながら、示談以降は治療期間は4ヶ月余りに限定されるべきという主張をしてきました。
※なぜこのような相手方の主張が通るかといいますと、相手方が任意一括対応をして、被害者が入通院をした医療機関に支払う治療費相当額は、法的には、「お金の名前をつけない支払い」となるからです。つまり、この医療機関に対する治療費相当額の支払いは、被害者が認められるべき全損額のうち、どの損害費目に充ててもいいということになります(これを「費目拘束がない」ともいいます。)。
※他方、たとえば労災保険から示談前に支払われた休業補償金は、消極損害(休業損害、後遺障害逸失利益、死亡逸失利益)からしか引くことができません(たとえば、慰謝料からは引くことができません。)。これを「費目拘束がある」などといいます。
しかし、最終的に交通事故紛争処理センターは、被害者側の主張を認めました。その中で、被害者が救急搬送されたこを、「軽微な衝突事案であるとはいない」ことの一事情として挙げられました。病院に救急搬送されたということは、被害者は自力で事故現場から病院に行くことができなかったということだからです。
このように救急搬送されたという細かい事実もきちんと主張することが大切になってきます。
治療経過
被害者は、この交通事故後、くび、肩、腰の痛みを生じたため、救急搬送先で診察を受けたところ、捻挫・打撲にとどまり、入院とはならず、その日に帰ることになり、その後は自宅近くの開業医整形外科医院へ通院を継続することになり、リハビリテーションや投薬治療をすることになりました。
整形外科医院からの紹介状により、別の医療機関で頚椎と腰椎のMRI検査も施行されました。
このように治療を続けましたが、結局症状は残り、後遺障害診断となりました。
治療期間は208日、通院実日数は114日 でした。
後遺障害等級認定結果
治療初期から当法律事務所がご依頼をお受けしました。
後遺障害等級の申請も問う法律事務所が代理して行いました。
結果、初回の申請で、以下の結果が出ました。
●くびの痛み、肩の痛みの各残存…後遺障害14級9号
●腰の痛みの残存…後遺障害14級9号
14級が2つ認定されると、総合評価としては併合14級という言い方になります。14級が2つ認定されても全体の等級が上がるわけではありません。
しかし、最後の損害賠償のときには、後遺障害等級が2部位に認定されたことをきちんと主張していくべきです(どのように主張するべきなのかについてはここでは省略いたします。)。
■自賠責保険の後遺障害等級判断は厳しくなっている?
最近、自賠責保険の後遺障害等級の判断は厳しくなっている印象を受けます。
痛み、しびれなどの神経症状の後遺障害も例にもれず、厳しくなっていると感じております。
また、後遺障害等級の判断は、画像の状態をより重要視されている印象も受けます。
■本件後遺障害14級の認定は妥当か?
痛みが残った後遺障害14級の上の等級に後遺障害12級13号というものがあります。
ただし、本件の医療資料を見ると、後遺障害12級13号が認定される可能性は極めて低いと考えられるものでありましたので、被害者とご相談のうえ、後遺障害14級を前提に相手方と最終示談交渉に入る流れになりました。
後遺障害14級が認定されたことで、被害者には 自賠責保険から75万円の支払い がありました。
示談交渉 ~相手方から素因減額の主張~
相手方には最終で320万円(千円以下省略しております。)の追加請求をしました。
(相手方は異動により担当者が変更となっていましたが)相手方からは、42万円(千円以下省略いたします。)の回答でした。
[相手方の主張の骨子]
●本件の治療期間は4ヶ月余りが相当である。
●頚部と腰部画像には経年性変化所見が見られるため、素因減額の主張をする
●事故後に収入の減少がないから後遺障害逸失利益は認定できない
■素因減額(そいんげんがく)とは
交通事故以前に既往疾患等があり、これが交通事故後に生じた症状に影響を及ぼして損害が発生した場合に、この既往疾患の態様、程度から、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失すると判断された場合、損害を減額されるという理論のことをいいます。
被害者側としては、上記相手方の主張は全て応じられませんので、これ以上示談で話をしても解決にいたるとは考えられません。
被害者のご意向もふまえ、本件を交通事故紛争処理センターに申し立てることになりました。
交通事故紛争処理センターの第1段階(あっせん手続)
■相手方による訴訟移行の要請
相手方から、本件は訴訟(裁判)の手続で解決するケースなので、センターでの手続を打ち切って裁判に移行して欲しいという申し立てがありました。
この訴訟移行要請申立てがあると、センターでの手続はいったんストップし、センター本部が、このケースは訴訟(裁判)手続に移るべきかどうかを判断します。
本件は、訴訟移行要請について、センター本部から、「否」の回答がありました。
「否」ということは、このままセンターでの手続を打ち切らずに継続するという意味です。
本件は、要請があってから結果回答があるまで約3ヶ月の期間を要しました(この間、センターでの手続はストップします。)。
■再びセンターでの手続に戻りました
相手方からは、顧問医の意見書が提出されました。
この意見書は、被害者の症状の出現や残存は、頚椎や腰椎各画像上からうかがえる経年性変化により生じたものであり、既往障害として大きな影響が及んでいる旨の内容になっていました。
※相手方の主張は、訴因減額として損害を大幅に減額しなければならないというものです。
この意見書に対し、被害者側も協力医に医学的意見書をご作成いただき、これを提出しました。
意見書の内容は詳細には申し上げられませんが、本件は素因減額の対象とはならない旨の内容が含まれたものでした。
これに加え、こちらからは、以下の主張をしました。
●相手方が主張するような「経年性変化」は素因減額をするべきという意味での「疾患」とはいえないから、「素因」として到底考慮できるものではないこと
●この交通事故前、被害者には体に何の症状もなく、整形外科への通院歴はなく、医療類似行為をする施設へもいったこともなかったこと
●この交通事故後の通院でかかわった、整形外科医等の医師から、頚椎や腰椎の画像に年齢相応を超える所見があるというような指摘を受けたことがなかったこと
●この交通事故は、相手方車両からの衝突を受けて被害者が乗っていた大型バイクもろとも転倒し、大型バイクと地面にあしをはさまれたうえ、体も地面に打ったという衝撃の大きな事故であり、被害者も事故後すぐ病院に救急搬送されたこと
●上記のような大きな衝撃の事故であったこともふまえ、治療期間208日は長くはなく(2部位に後遺障害14級が認定されたこともふまえるとなおさらであること)、相手方に損害の全部を賠償させても全く公平を失しないので、素因減額をする余地はないこと
上記主張に加え、頚椎捻挫・腰椎捻挫で後遺障害等級が認定されたケースで素因減額の主張を排斥した裁判例を、3例、証拠として提出しました。
また、収入の減少はないから利益の逸失がない旨の相手方主張(後遺障害逸失利益という損害項目に関してです。)に対し、以下のような主張をしました(ただし、以下のもの以外にも主張をしております。)。
●くび、肩、腰の痛みが続き、残存していることにより、被害者がしている職業にどのような影響が及んでいるかを具体的に述べました
●症状固定となった後も、被害者が自らの費用負担において通院を継続していたことなど、被害者本人の努力により減収を免れる努力をしていること
●主治医の先生が、被害者の症状は今後も緩解の可能性は低いと診断書に明記されていること
これらの主張をふまえ、あっせん手続では以下の内容のあっせん案が出されました。

※以上の金額は、実際の提案金額を百円以下切り捨てて記載しております。ですので、最終支払額は実際の提案金額と千円単位で誤差が出ておりますことをお断り申し上げます。
通院慰謝料以外は当方からの請求どおりの認定です。
後遺障害逸失利益は、労働能力喪失率5%、労働能力喪失期間5年に基づいた金額です。素因減額も認められておりません(これも当方の主張どおりです。)。
ところが、相手方は、示談前に相手方から回答した金額どおりであるとして、このあっせん案に応じませんでした。
そのため、続きの審査の手続に移りました。
交通事故紛争処理センターの第2段階(審査手続)
審査の手続での実際の経緯については省略いたします。
審査の最終で、以下のとおりの裁定がでました。

※以上の金額は、実際の提案金額を百円以下切り捨てて記載しております。ですので、最終支払額は実際の提案金額と千円単位で誤差が出ておりますことをお断り申し上げます。
■通院期間は被害者側の主張が認められました。
■通院慰謝料以外は当方からの請求どおりの認定です。
後遺障害逸失利益は、労働能力喪失率5%、労働能力喪失期間5年に基づいた金額です。
■素因減額も認められておりません。
通院期間が被害者側の主張どおりであることについて、裁定書では、以下のことが理由として記載されていました。
・事故態様、バイクの損傷状況、被害者が救急搬送されたこと、自賠責保険で後遺障害14級が認定されたことに照らせば、本件事故は軽微な衝突事案であるとはいえない
・主治医が後遺障害後遺障害診断書で既存障害の有無について「無」との判断をしている
・申立人の画像上の異常は年齢相応のものである
・この交通事故前に被害者には通院や治療歴がなかった
素因減額をしないことについても、裁定書では以上のことを理由として記載されていました。
後遺障害逸失利益について裁定書では以下のことが記載されていました
被害者には本件事故による収入の減少は生じていないが、それは被害者本人の努力によるところが大きく、受傷の程度が、被害者の職務遂行の際に生じる支障の程度が少ないことを示すものとは認め難く、現に、被害者が職務遂行にあたり一定の支障を感じており、これが将来の給与額上昇の妨げとなる可能性は否定できない
裁定が出た場合
被害者側は、裁定で出された金額について、応じる意思表示をするか、拒否して裁判手続に移る意思表示をするかの二者択一となります。
他方、相手方は、被害者側が応じた場合、この裁定結果を尊重しなければなりません。
当方はこの裁定結果に応じ、解決しました。
交通事故紛争処理センターでのあっせん案の金額と審査での金額
審査段階で出される最終支払金額が、あっせん案で示された最終支払金額よりも上がるか、下がるか、その変化の程度はどうかについては、個々の案件次第であるとしかいいようがありませんが、本件では、あっせん案の金額よりも審査での金額の方が約5万円ほど上がりました。
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