交通事故後の耳鳴(頭部所見や骨折なし) 後遺障害14級認定事例

(令和7年12月2日原稿作成)

 

 

耳鳴発生の経緯

 

自転車に乗車して走行していた被害者(男性:30代後半:会社員)が、四輪車と衝突しそうになり、ブレーキをかけて接触は回避したものの転倒して負傷したという交通事故でした。

 

 

被害者は、腕、頭部、顔などを地面に打ち、衝撃でくびや腰も痛めました。

 

 

被害者は事故後すぐに病院に行き、受診しましたが、結局、骨折はなく(正確にはひじは骨折があると診断されたのですが、自賠責保険は骨折を否定しました。)、頭部は打撲のみ、顔は皮下血腫のみであり、それ以上の異常所見はありませんでした。

 

 

その後、すぐに被害者は開業医の整形外科を受診されリハビリテーションを続けましたが、事故から2週間ほど経過したときに両耳の耳鳴が発生しました。

 

 

 

 

 

 

被害者の耳鳴りに関する対応は迅速かつ適切でした

 

耳鳴も交通事故が原因で発生し得る傷病です。

 

 

交通事故後に耳鳴りを感じたら、すぐに耳鼻咽喉科を受診するべきです。

 

 

本件被害者の方の対応が良かった点は、耳鳴りを自覚したらすぐに通院している整形外科医の先生の診察に行かれ、耳鳴の発生を訴えたことです。

 

もちろん、耳に異常があれば困るお仕事だったということもありました。

 

 

交通事故前、被害者に耳の異常は一切ありませんでした。

 

 

整形外科医の先生にとって、耳鳴は領域外の分野になります。

しかし、紹介状により他診療科を受診するべきケースと判断されれば、耳鼻咽喉科への紹介状を作成され、つながりにより耳鼻咽喉科を受診する道が開けます。

 

 

紹介を受けた耳鼻咽喉科医の先生も紹介状があることで、より安心して患者を診ることができると思われます。

 

 

本件被害者の方は、自宅近くの耳鼻咽喉科開業医に通うことになりました。

 

 

 

 

 

耳鳴のことがきちんと診断書に書かれていました

 

耳鼻咽喉科の初診は交通事故から1ヶ月余りになってからでした、

しかし、被害者は、初診時に、「両耳の耳鳴が発生したのが事故から2週間後であったこと」を医師の先生に伝えました。

自賠責様式の診断書には耳鳴が出現した時期が明記されていました。

 

 

 

これに加え、紹介状を出された整形外科でも、耳鳴が出現した月の自賠責様式診断書に「耳鳴に対しては耳鼻咽喉科を紹介した」と明記されていました。

 

 

 

耳鳴に限ったことではありませんが、治療が遅れれば遅れるほど、その症状が交通事故によって生じたことを加害者側が否定してくる可能性が高まります。

 

 

しかし、症状出現が事故から間もない時期であったことが診断書に明確に書かれましたので、後の後遺障害等級審査のときに役に立ったと思われます。

 

 

被害者はこの耳鼻咽喉科医院で処方された内服治療を続けながら定期的に聴力検査を受けました。

 

初回の聴力検査から両耳の難聴という診断が下りました。

 

受診から3ヶ月目にかけて少しずつ回復してはいったのですが、聴力低下の状態と耳鳴は残りました。

 

 

 

 

 

 

 

当法律事務所の対応

 

 

交通事故にあって間もない段階で被害者は当法律事務所のホームページをごらんになり、無料相談にお越しになりました。

 

 

1 無料法律相談で耳鼻咽喉科への通院までのたどり着き方をアドバイス

 

初回の相談でくび、腰、ひじの症状のことを気にされていたほかに、耳鳴がするとおっしゃいました。

 

ところが、耳鳴りに関しては医療機関に伝わっていなかったので、まずは今かかっている整形外科医にお伝えいただき、耳鳴については、そこから耳鼻咽喉科へ紹介状を出していただくことが可能かどうかご相談された方がいいとアドバイスをしました。

 

その結果、耳鼻咽喉科への通院治療にたどり着くことができました。

 

 

2 症状固定直前のアドバイス

 

被害者には弁護士費用特約がなかったことから弁護士依頼を迷っておられました。

症状固定直前の時期になり、後遺障害診断のことで不明なところがあるということで、再度ご相談に来られました。

被害者は症状固定時期も耳鳴がつづいているとのことでした。

 

 

《耳鳴りに関係する検査》

耳鳴の後遺障害については、耳鳴に関係する検査を受けていただく必要があります。

後遺障害等級認定実務において、耳鳴に関係する検査とは、以下の検査をいいます。

  • ピッチ・マッチ検査
  • ラウドネス・バランス検査

 

 

当法律事務所からは、耳鳴に係る検査を受けていただく必要があるので主治医の先生と相談してください、主治医の先生のところに検査機器がなければ検査機器のある病院に紹介状を出される可能性もあります、とアドバイスしました。

 

 

 

 

 

後遺障害等級認定結果…併合14級

 

耳鳴に関係する検査については、被害者は主治医の先生に相談され、紹介状により検査機器のある病院で検査が行われました。

 

整形外科では後遺障害診断書が作成されました。

 

 

後遺障害等級認定の結果

 

以下の4部位につき、それぞれ後遺障害14級が認定され、併合14級と判断されました。

 

  • 頚椎捻挫後のくびの痛みなど…後遺障害14級9号(局部に神経症状を残すもの)

 

  • 腰椎捻挫後の腰痛…後遺障害14級9号(局部に神経症状を残すもの)

 

  • 右ひじの痛み…後遺障害14級9号(局部に神経症状を残すもの)

 

  • 両耳鳴…受傷形態、症状推移等を勘案すれば、本件事故に受傷に起因する症状であるものととらえられ、オージオグラムを検討した結果、「難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できあるもの」に該当するとして後遺障害14級相当と判断されました。

 

つまり、耳鳴の残存については後遺障害14級が認定されました。

 

 

 

 

 

 

耳鳴の後遺障害14級が認定された意味~後遺障害逸失利益~

 

 

捻挫・打撲が原因で痛みが残った後遺障害14級が認定された場合、労働能力喪失期間は最大でも5年が認められるにとどまる運用をされています(ただし、例外事由が全て排除されるとは限りません。)。

 

 

つまり、最大でも、

基礎収入(年収)×0.05(14級の労働能力喪失率)×労働能力喪失期間(中間利息控除率年3%とした5年の係数は4.5797)

という計算によることになります。

 

 

ところが、耳鳴が残った場合の後遺障害逸失利益は、症状固定後の障害の状態、将来的な症状の程度に関する医師の見解などが考慮され、将来の改善が見込まれることが困難であると判断された場合、労働能力喪失期間が5年にとどまらない解決になる可能性があります。

 

 

そうすると、捻挫打撲が原因で痛みやしびれが残った後遺障害14級9号の後遺障害逸失利益よりも損害額が大きくなる可能性があるということになります。

 

 

耳鳴残存の後遺障害については、弁護士も、該当する事件の記録を細かく検討して、被害者にとって正当な最大限利益となる主張をしなければならなくなります。

 

 

 

 

 

 

示談交渉・当法律事務所弁護士受任

 

耳鳴の後遺障害14級が認定されたことで、損害賠償問題、つまり示談交渉は、より専門的で複雑になってきます。

賠償の知識が少ない被害者が、経験豊富な損害保険会社担当と対等に話ををしてくのは力量差がありすぎるものと言わざるを得ません。

 

本件は弁護士費用特約はありませんでしたが、示談交渉の難しさ、重要さがあるので弁護士が依頼を受けることになりました。

 

示談成立

弁護士が示談交渉した結果、最終で 385万円 の支払いを受ける合意ができました。

この385万円の支払い以前に被害者はご自身で休業損害の請求をしておられ、34万円余りの支払いを受けておられましたが、これを除き385万円が支払われました。

 

 

耳鳴の後遺障害逸失利益については、労働能力喪失率5%として、就労可能年数(症状固定時の年数から67歳までの年数)に近い労働能力喪失期間での解決ができました。

 

 

 

 

 

難聴や耳鳴の後遺障害について

 

交通事故で頭部の損傷や耳の直接損傷がなくても、頭部やくびを受傷した捻挫打撲でも、難聴や耳鳴の後遺障害が認定される可能性はあります。

 

ただし、難聴や耳鳴はできるだけ早く医療機関に診てもらうことがとても重要になります。

 

特に、交通事故で骨折などなく捻挫、打撲を受傷したにとどまった場合、耳の障害が交通事故と関係するということに気づく方は少ないと思われます。

 

このようなケースこそ、交通事故の後遺障害問題にくわしい弁護士にすぐご相談されることをおすすめいたします。

 

また、本件の被害者が受診された整形外科医院、耳鼻咽喉科医院がとても適切な対応をされましたし、耳鳴検査を実施された病院も丁寧な対応をされましたので、医療機関選びも結果的に適切でした。

 

執筆者

代表弁護士 金田英二
代表弁護士 金田英二代表弁護士
金田総合法律事務所の金田英二です。交通事故で受傷された被害者の救済を実現することを目標に、日々尽力しています。