絶望的な状況から尺骨神経麻痺・ひじ関節可動域制限で後遺障害9級が認定され3300万円を超える支払を受けたケース
(令和3年7月25日原稿作成)
最初にご相談をお聞きしたときの状況(とても厳しい状況でした)
●加害者は自賠責保険には入っていたが、任意保険には入っていなかった
●被害者には交通事故によるケガの後遺障害が残っていたが、事故後3ヶ月弱以降治療の中断が約2年半あった
●加害者に対する損害賠償請求の時効の消滅がせまっていた
本件ではこのような事情があったケースでした。
交通事故によるケガが重くても、上記の事情がかさなると、被害者にとっては以下の点で困ります。
●加害者が自賠責保険には入っていたが、任意保険に入っていないと…
自賠責保険は、後遺障害以外のケガの損害について、上限120万円までしか支払をしませんし、後遺障害等級を認定してくれても後遺障害の損害についても定額、それも低い金額しか支払われません。
被害者の損害賠償額が上記の自賠責保険の限度額を超える場合、超えた部分について加害者自身に支払能力があればいいのですが、損害額が大きくなる場合、加害者自身から支払を受けることはまず期待できません。
●治療が中断してしまうと…
30日以上治療が中断してしまうと、それ以降に通院治療をしても、自賠責保険は、その治療と事故との因果関係を否定してくると思われます。
そうしますと、中断した以降の治療費、通院交通費、休業損害、傷害慰謝料といった損害は自賠責保険から支払われなくなりますし、後遺障害等級の認定も被害者に不利な判断になる可能性が高まります。
そして、このような治療の中断状態をくつがえすのは極めて困難です。
●損害賠償請求消滅が時効にかかってしまうと…
損害賠償請求権が消滅時効にかかってしまい、加害者から時効にかかったと主張されれば、請求額がいくらあっても被害者は支払いを受けることができなくなります。
時効の進行を止めるには、「中断措置」をとる必要があります。「中断措置」をとり、消滅時効が中断すれば、時効の進行は振り出しに戻り、またゼロから進行することになります。
ただ、この「中断措置」をとることも簡単にいくものではありません。
本件では、上記の3つのほかにも厳しい状況がありましたが、上記の3つの事情があるだけでも、被害者が正当な損害賠償金の支払を受けることは絶望的になりますし、弁護士が相談を受けてもさじを投げざるを得ない状況なのです。
弁護士金田は、本件でひとつひとつ問題にとりかかり、自賠責保険で後遺障害9級の認定を受け、弁護士金田受任後、被害者は3300万円を超える支払を受けることができました。
本件で救いだったのは、ご担当された整形外科主治医の先生が、とてもていねいに患者(被害者)を診察され、かつ、後遺障害に関して深いご理解があったことと、被害者には無保険車傷害保険特約があったことでした(人身傷害保険特約も含まれていました)。
経 緯
被害者(20代男性)は、後部座席に同乗していた中型バイクが転倒し、負傷しました。
被害者は肘(ひじ)を受傷したのですが、受傷直後の画像では骨折がはっきり判明しませんでした。
しかし、事故から1ヶ月余り経過したレントゲンでは、ひじに 異所性骨化 が出現したという所見がありました。
異所性骨化(いしょせいこっか)とは…本来、骨がない部分に骨ができてしまうことをいいます。
この異所性骨化は、交通事故の外傷を原因としたものであるというのが主治医の先生のご見解でした。
被害者は、ひじの痛み、ひじの関節が十分曲がらない、手指のしびれ、手指が使いにくい(巧緻障害といいます)といった症状があり、リハビリを行うことになりました。
ところが、頭部関係の症状が出たことでこの治療をすることになったことなどがあり、事故後3ヶ月弱以降、この治療が中断しました。
事故から2年9ヶ月ほど経ち、被害者の肘や手指の症状で整形外科の治療を再開し、診察を受けたところ、異所性骨化が尺骨神経(しゃっこつしんけい:腕の小指側を通る神経です)を圧迫し、手の筋肉が萎縮している(=手の筋肉がやせることです)とのことで、結局、手術をすることになりました。
当法律事務所の無料相談・受任
被害者は、今後のことが気になり、当法律事務所の無料相談におこしになりました。
弁護士金田は、事故状況、症状、治療経緯、手術の予定があること、加害者に任意保険加入がないこと、これまでの加害者とのやりとりの経過、被害者側の保険の加入状況などをお聞きしました。
最初にも述べましたが、本件にはハードルがいくつもあり、見通しは極めて厳しいものでしたが、弁護士金田は以下の点に目をつけ、ご依頼をお受けしてすすめることになりました。
●治療の中断はかなり長いが、中断直前に上記のとおり重要な所見があったことと、この中断直前の所見と、中断後の所見や今後の治療方針とはつながっていそうである
●間近にひじの手術実施が予定されているので、手術実施の事実も事故直後からの受傷との連続性を訴える材料になりそうである
●本件被害者の症状からして、自賠責保険で後遺障害等級が認定されたら光が見えてくる
⇒被害者側の無保険車傷害特約により、後遺障害が認定されると、自賠責保険を超えた損害賠償レベルの支払を被害者が受けることが可能になります
●整形外科の主治医の先生はとてもていねいに患者(被害者)を診察され、かつ、後遺障害に関して深いご理解をお持ちであるので、あとは自賠責保険の後遺障害認定傾向で重要なことに関して主治医の先生とコミュニケ-ションがとれれば、なお前向きに進むことができる
加害者への損害賠償請求権の消滅時効の中断
まず最初にしなければならなかったのは、加害者への損害賠償請求権が時効で消えないようにすることでした。
消滅時効の中断は、以下のとおり、2つしなければならなりません。
1 自賠責保険の消滅時効の中断
2 加害者に対する消滅時効の中断
1については、自賠責保険会社に連絡をとり、時効中断申請書を送ってもらい、必要資料を添付して郵送すれば、時効を中断してくれます。
弁護士金田は、すぐ、この手続を行いました。
2については、いくつかの方法があります。
根本的な解決方法は、加害者に対して民事の損害賠償請求訴訟(裁判)を起こすことです。この裁判を起こせば消滅時効の進行は完全に止まりますし、この裁判の中で最終解決ができます。
ただし、本件では、手術が行われた後もしばらく状態を確認する必要があり、後遺障害が残って診断となるとしてもまだ先になるという事情があり、できれば裁判提起以外の時効の中断措置をとりたいところであると弁護士金田は考えました。
被害者が支出したままとなっていた治療中断前の治療費が2万円余りほどありましたので、まずはこれを加害者に対し請求して支払ってもらうよう交渉することにし、弁護士金田が加害者に交渉し、この治療費の支払を受けることができました。
この加害者からの治療費の支払は、上記2の消滅時効の中断理由になります(実際は、細かい法律上の条件にしたがって処理しましたが、ここでは細かいことは省略いたします。)。
神経伝導検査
上記時効中断対策と並行して、被害者には、整形外科診察時に主治医の先生に対し、神経伝導検査について相談をしてみてくださいとお願いしました。
本件被害者には尺骨神経(しゃっこつしんけい)に異常があるケースですが、自賠責保険は、このような神経に異常があるのであれば、検査によって神経の異常を立証していことを暗に求めています。
ですので、神経の異常の立証作業が必要になるのですが、この部位的にも、神経伝導検査という検査で確認することが重要になってきます。この検査は、神経内科の取り扱いになりますので、主治医の先生からの指示が必要になります。
主治医の先生は、この検査指示を出され、検査が実施されました(尺骨神経の伝導検査)。
結果は、尺骨の運動神経伝導検査において、健側(受傷していない側)に比べ、患側(受傷側)で、振幅と伝導速度が大幅に低下していました。つまり、尺骨の神経に障害があることが検査により明らかになりました。
※ 弁護士金田は、神経伝導検査結果書面の内容も確認できます。
被害者に症状が残った場合、この検査結果は非常に重要な立証資料になります。なぜなら、神経に障害があることが客観的に明らかになるからです。神経に障害があると、痛み、しびれが続いたり、知覚がにぶくなったり、関節の可動域が制限されたりします。
なお、被害者の頭部関係の症状については、これまでの通院に関するカルテを取り寄せましたが、本件交通事故で被害者が頭部を受傷した記載がなく、通院先の診療科の診察にも一度弁護士が同席させていただきましたが、本件交通事故との関係はないとのご見解でしたので、画像所見もなかったことから、頭部関係の症状はあきらめざるを得ませんでした。
後遺障害診断
手術から経過しても、被害者の症状は残存したため、後遺障害診断をされることになりました。
後遺障害診断前に、弁護士金田から、整形外科の主治医の先生とご連絡をとらせていただくことができました。
気になったのは、以下の点でした。
被害者に尺骨神経の障害があるために、ひじの関節の可動域が制限されていることはわかるのですが、本件は、その部位に骨折もなかったので、交通事故でひじを打撃した後、どういう医学的根拠により尺骨神経が障害され、関節の可動域が制限されたのかがわかりませんでしたので、そもそも医学的根拠があるのかどうかと、あるとしてどのような根拠なのかを主治医の先生におたずねしました。
治療の中断が2年半もあったことから、そもそも交通事故により受傷したことと、現在の被害者に残存している症状との因果関係があると考えられるのかどうかを主治医の先生にお尋ねしました。
この点については、受傷1ヶ月余りのレントゲンで患部に外傷性の異所性骨化が出現し、これが尺骨神経を圧迫して手の筋肉の萎縮が目に見える形で出現したので(⇒これは中断後の診察での確認によるものです。)、手術を施行することになった旨のご回答をいただきました。
つまり、治療の中断はあるも交通事故によりひじを受傷したことが原因であること、交通事故によりひじを受傷したこととひじ関節の可動域制限との医学的関連性(つながり)があることが明らかになりました。
作成された後遺障害診断書にもこの旨の記載があり、ひじ関節の可動域も患側(受傷側)は、健側(受傷していない側)の2分の1以下の数値でした(患側のひじは十分に曲げることができないことに加えて、曲がったまままっすぐに伸びない状態なのです。)。
手の筋肉が萎縮していることについては、弁護士金田が、被害者の両手の写真を撮影し(左右の違いを明らかにするために両手を同時に写真撮影しました。)、この写真も後遺障害診断書と一緒に自賠責保険に提出しました。
自賠責保険への後遺障害等級認定の申し立て ⇒ 後遺障害9級認定
弁護士金田が代理して後遺障害等級の申請をしました。
結果は以下のとおりで、後遺障害併合9級 が認定されました。
ひじ関節の可動域制限については健側に比べて2分の1以下に制限されていることで後遺障害10級10号に該当する
手(薬指と小指)のしびれ、手の巧緻障害という症状に関しては、診断書や検査結果(これは神経伝導検査のことです)より本件事故による尺骨神経麻痺が認められ、手術の施行も認められること等から、他覚的に神経系統の障害が証明されるものととらえられ、後遺障害12級13号に該当する
上記の後遺障害10級10号と12級13号は、重い方の等級を一つ繰り上げる処理になります(=併合処理といいます)ので、後遺障害9級(併合9級)となります。
解 決
本件で後遺障害等級が認定されたため、なかなか動かなかったものが進むことになりました。
後遺障害9級が認定されたことで、自賠責保険から 616万円 が支払われました。
最終的に、被害者側の保険、つまり、無保険車傷害保険(人身傷害保険も含みます)から、2700万円余りの支払い がありました。
これらを合計して、被害者は、3300万円を超える支払い を受けることができました。
被害者にはかなり重い症状が残りました。これに見合う賠償金の支払いは受けられたと思っています。
一つでもあきらめていたら、わずかの賠償しか受けられないケースでした。