第12胸椎・第1腰椎破裂骨折 脊柱運動障害 加重障害として後遺障害8級2号が認定されたケース

(令和7年6月3日原稿作成)

 

事故状況

 

被害者(事故時60代女性)は、助手席に同乗していた車が運転を誤り、対向車線道路のわきにある土手に突っ込み横転するという交通事故にあいました。

 

 

 

入院・通院状況

 

被害者は自力で脱出できず、救助隊に救助され、ヘリコプターで病院に搬送されました。

 

搬送先の病院での画像診断の結果、第12胸椎破裂骨折、第1腰椎骨折 と診断されました。

 

胸の背骨は12個あります。上から12個目の胸の背骨のことを「第12胸椎」といいます。

第12胸椎の下には腰の骨が5つあり、その1番上の腰骨は「第1腰椎」といいます。

つまり、第12胸椎のすぐ下に第1腰椎があります。

※因みに、上から1つめの胸の骨(第1胸椎)の上には第7頚椎があります(くびの骨は7つあります。)。

 

 

被害者は別の病院に転院入院となり、手術が行われました。

 

第12胸椎は、破裂の程度がひどかったことから、中に風船を入れてふくらませ、そして風船を抜き、その抜いた空間に骨セメントを充填する手術(BKP)が行われました。

そして、第10胸椎から第2腰椎の後方(背側)体内にスクリューが挿入され、固定する手術が行われました(後方固定術)。

 

 

被害者は事故後1ヶ月あまりで退院され、退院後、リハビリテーションのための通院をしました。

 

 

手術後は1年以上も金属枠のある胸椎装具をつけた状態が続き、その後も別の装具をつける状態が続きました。

 

 

事故直後の手術から約1年3ヶ月後、胸椎の体内に入っていたスクリューを抜く手術が行われました。

 

 

しかし、被害者の背部、腰部の痛みは続き、胸腰部が十分に動かない状態が続きました。

 

 

 

 

 

 

当法律事務所のホームページをごらんいただきました(弁護士受任)

 

スクリューが抜去された後、間もなくして後遺障害診断となり、後遺障害診断書が作成されました。

 

ただ、被害者は主治医の先生が作成された後遺障害診断書を見て、「この内容でいいのだろうか…」と不安になられ、ホームページを見て当法律事務所にお問い合わせいただき、無料相談におこしになりました。

 

弁護士金田は、事故状況、治療状況、お仕事や日常の状況をお聞きし、後遺障害診断書を見せていただきました。

 

弁護士費用特約については、ついていないと思っておられたようでした。ただ、成人されているお子様と同居されており、自動車をお持ちで自動車保険をかけておられるようでしたので、再度弁護士費用特約の有無についてご確認いただくことになり、初回は相談のみで終了しました。

 

 

その後、弁護士費用特約の適用があることがわかり、当法律事務所がご依頼をお受けすることになりました。

 

 

 

 

 

 

 

弁護士による後遺障害診断書のチェック、画像確認

 

 

■後遺障害診断書の自覚症状欄…腰部痛、背部痛などの記載がありました。

 

 

■後遺障害診断書「①他覚症状及び検査結果 精神・神経の障害」欄には、後方固定術という脊椎固定術が行われたという記載がありました。

→交通事故で受傷し、せき椎固定術が行われたものは(除外要件もありますが。)、せき柱に変形を残すものとして後遺障害11級7号の条件を見てることになります。

ですので、本件でも後遺障害11級7号の条件は満たしそうということになります(ただし、これだけですと、後述のとおり、既存障害の問題が深刻になりそうなところでした。)。

 

 

弁護士金田が画像を取り寄せ、確認しました。以下は、症状固定の直前に撮られた被害者の胸腰椎部のCT像です。

 

 

赤矢印は第12胸椎 です。

この第12胸椎の前壁部(お腹側の壁のことです)が後ろに比べてつぶれていることがわかります。この点においても、少なくとも後遺障害11級7号(せき柱に変形を残すもの)に該当するだろうと弁護士金田は考えました。

 

ただし、第12胸椎、第1腰椎の画像上の状態からすると、「せき柱に中程度の変形を残すもの」という後遺障害8級相当の条件にはあたらなさそうかと思いました。

 

あとは、以下の胸腰椎部の可動域制限が認定されるかどうかだけかと思いました。

 

 

 

■胸腰椎部の運動障害の欄について

頚椎部・胸腰椎部についても、自賠責保険の運用上、骨折や脱臼などの原因がある場合、可動域制限の後遺障害(運動障害)等級の問題が出てきます。

しかし、胸腰椎部と頚椎部の可動域制限問題には特殊性があります。すなわち、胸腰椎部と頚椎部は左右がありません。

そうすると、「何と比較して、可動域がどの程度制限されているのか」が問題になります。

これについては、「参考可動域角度」というものがあり、これと比較していきます

 

 

以下の左の表は、本件後遺障害診断書に記載された被害者の胸腰椎部可動域測定数値です。

以下の右の表は、参考可動域角度の数値です。

 

[脊柱の変形障害(後遺障害11級7号)の条件を満たすことが前提ですが]胸腰部の可動域、つまり、主要運動である前屈と後屈の合計値が参考可動域角度の2分の1以下に制限されている場合、数値上、後遺障害8級2号の条件を満たします。

 

もし、主要運動の数値が参考可動域角度をわずかに(胸腰椎部は+5度です)上回る数値の場合、参考運動(胸腰椎部は、「側屈」又は「回旋」のうちいずれか)が参考可動域角度の2分の1以下に制限されていれば、これも数値上後遺障害8級2号の条件を満たします。

 

 

上の表のとおり、本件の主要運動(前屈・後屈)の数値は、30度+10度=40度になります。主要運動(前屈・後屈)の参考可動域角度は45度+30度=70度なので、この2分の1は35度となり、本件は、参考可動域角度の2分の1を超えた数値になってしまいます

 

ただし、上回ったのは5度であり(40度-35度)、主要運動の数値が参考可動域角度をわずかに上回るケースになりますので、参考運動も確認することになります。

そして、参考運動である左右の側屈の合計値は、本件が25度(15度+10度)、参考可動域角度のそれは100度(50度+50度)であり、参考可動域角度の2分の1以下に制限されている数値になりますので、数字上は後遺障害8級2号の条件を満たすことになります。

 

 

 

 

ただし、脊柱の運動障害については、数字上の条件を満たしていても、その等級が認定されるとは限りません。

たとえば、「骨折状況などを勘案し、交通事故により後遺障害診断書に記載されているような高度の可動域制限を生じるものとはとらえがたい」といった理由で自賠責保険が運動障害を否定するケースも少なくありません。

 

 

 

そのため、弁護士金田は、以下の画像をキャプチャーして印刷して自賠責保険に提出しました。

・受傷直後の第12胸椎と第1腰椎の骨折の状態が映っているMRI画像

・脊椎固定術が行われ、スクリューが入った状態の胸椎・腰椎CT画像

・症状固定直前の第12胸椎と第1腰椎が映っているCT画像

 

これらの資料を提出した理由は以下のとおりです。

 

・第12胸椎と第1腰椎の骨折の程度(受傷直後と症状固定直前時期です。)を一目見ただけでわかっていただきたいと考えました。特に折れた骨の変形の程度と、最終的に第12胸椎と第1腰椎のすきまが狭くなっているようでしたので、この点をきちんと確認して欲しいと考えました。

・骨折部位も含んだ5つの背骨にスクリューが入って固定されている状態が1年3ヶ月も続いたことをわかっていただきたいと考えました。

 

 

これらに加え、弁護士金田は、被害者が1年以上も金属枠の装具をつけていたことも主張して提出しました。

 

 

 

 

 

 

 

後遺障害等級認定結果…後遺障害8級2号(既存障害11級7号の加重障害)認定

 

当法律事務所が代理し、自賠責保険に後遺障害関係資料を提出しました。

結果は以下のとおりです。

 

提出の画像上、本件事故に起因する第12胸椎破裂骨折、第1腰椎椎体骨折や後方固定術の施行が認められ、後遺障害診断書上、胸腰椎部の可動域が主要運動の屈曲(前屈)・伸展(後屈)では参考可動域角度の2分の1をわずかに上回り、かつ参考運動の側屈・回旋では参考可動域角度の2分の1以下に制限されていることから、脊柱に運動障害を残すもの として後遺障害8級2号に該当する

 

 

脊柱の変形後遺障害11級7号を超えた後遺障害が認定されたことで、被害者の苦しい思いは少しはむくわれたとは思います。

 

 

しかし、本件で、自賠責保険は、第7胸椎に本件事故以前のものととらえられる骨折が認められると判断しました。

わかりにくい内容ですが、つまり、被害者の胸椎・腰椎の状態は、もともと本件事故前、後遺障害11級7号の状態だったところ、本件事故により、同一部位である第12胸椎と第1腰椎骨折を受傷し(つまり、自賠責保険は、第7胸椎と第12胸椎・第1腰椎は同一部位としてみる扱いをしているということです。)、後遺障害の程度が加重されたのであって、全く後遺障害がない状態から8級となったものではない  という意味です。

 

 

第12胸椎と第7胸椎とは比較的近くにありますので、胸椎のレントゲン、CT、MRIといった画像の中でどちらも同時に映っている画像があり得ます。本件もそうでした。自賠責保険は、この映った第7胸椎の状態を見たようです。

 

この認定結果を見た後、画像を確認しましたが、第7胸椎が(圧迫骨折によくある)くさび型にはなっているようでした。この点を被害者に聞くと、本件交通事故前、胸や背中を打つような出来事はなかったようであり、胸や背中の痛みは全くなく、動かしにくいこともなく、何の支障もなく仕事はできていたとのことでした。

 

被害者が知らず知らずのうちに骨折を起こしていた可能性もあります。

 

 

このように加重障害となった場合、最終の損害賠償の交渉や裁判で、加害者側との主張の対立が起こる可能性が高まります。

 

被害者側が主張するべきことについては、ケース、状態、状況によって異なってきます。

 

もし、本件被害者のような状況にある交通事故被害者の方がおられましたら、ぜひ、当法律事務所にご相談ください。