左鎖骨遠位端骨折後偽関節 変形 後遺障害12級5号 弁護士が示談交渉などで811万円獲得
(令和7年2月22日原稿作成)
以下、交通事故で鎖骨を骨折したものの、骨折部分の骨が全くくっつかず(偽関節:ぎかんせつ といいます。)、後遺障害12級が認定され、 最終の損賠賠償問題も示談交渉で解決した事例を紹介いたします。
当事者、事故状況
被害者:50代女性、有職の家事従事者でした。
被害者が自転車に乗り、信号のない(一時停止もありませんでした)十字路交差点を通過しようとしたら、交差道路の左側から直進してきた四輪車に衝突されました。
当事者、事故状況
本件の過失割合は、被害者側20% です。
事故状況の図は以下のとおりです。
図のとおり、本件の基本的過失割合は、自転車側20%となります。
あとはどれだけ上の表に記載されているとおりの 修正すべき要素があるかどうか になります。
●修正要素の考え方 本件は午前中の事故でしたので夜間修正はありません。
●四輪車から見た自転車は右方から進入したことになるため、自転車右側通行・左方から進入の修正要素もありません。
●自転車側にはさらに過失を上乗せするような要素はありませんでした。
以上から、本件では少なくとも自転車側の過失が20%を超えないという見通しを立てることが可能です。
●被害者は、過失を減額すべきという意味での児童にも高齢者にも該当しません。
●本件事故現場には横断歩道も自転車横断帯もありませんでした。
●四輪車側にさらに過失を上乗せするべき事情もどうも見当たりませんでした。
ですので、本件は基本割合どおりの処理になる公算が極めて高いケースでした。
実際、相手方保険会社も同様の考えだったので、過失割合はすんなりと話が進みました。
相手方車両損害 被害者側にも過失がある場合、その分だけ相手四輪車の車両損害(ただし、あくまで適正妥当な価格)の支払いをしなければなりません。
しかし、本件の四輪車側は、被害者側に請求する意向がなかったとのことで、被害者側からの支払いはありませんでした。
被害者の受傷 ~鎖骨遠位端骨折~
この衝突により、被害者は自転車もろとも転倒し、近くの病院に救急搬送されました。
画像検査の結果、左橈骨遠位端骨折 と 左鎖骨遠位端骨折 と診断されました。
橈骨とは…ひじから手首にかけてある棒状の2本の骨のうち、親指側にある方の骨 のことです。
遠位端とは…「体幹から遠い方の端」という意味であり、橈骨でいえば 手首側の端 という意味です。
鎖骨とは…首の下から肩にかけてある棒状の骨のことです。
遠位端とは…「体幹から遠い方の端」という意味ですので、鎖骨でいえば肩付近の端 という意味になります。
橈骨、鎖骨の骨折部はいずれも保存療法(手術はしない治療法のことです。)がとられました。
橈骨骨折部はシーネで固定されました。
上記以外にも被害者は、本件交通事故により、左上の歯の根を1本破折しましたので歯科に通院することになり、インプラント治療がされることになりました。
鎖骨の偽関節(ぎかんせつ)
その後、橈骨遠位端の骨折はきれいにくっつき最終的には後遺障害を残しませんでした(痛みもなくなったとのことです。)。
しかし、事故から約5ヶ月目に撮られた鎖骨のCT検査で、被害者は主治医の先生の先生から 鎖骨の骨折部分は偽関節(ぎかんせつ) になっていると言われました。
●偽関節とは…骨折などによる骨片間のゆ合機転が止まって(関節ではないが、あたかも関節のように)異常可動を示すものをいいます。
自賠責保険のの後遺障害認定実務では、どうも、折れた部分が全くくっついていない状態のことをさすと考えられているようです。
偽関節の指摘を受けた被害者は心配になられ、ご紹介を通じて当事務所の無料相談にお越しになりました。
■歯の後遺障害は?
交通事故により、歯が現実に喪失するか、又は、著しく欠損し、それが3歯以上ないと後遺障害等級認定はされません。 本件で失った歯は1本ですので、本件では歯牙障害としては後遺障害等級の対象になりません。
しかし、1歯についてはインプラント治療が施されてます。 インプラント治療で気をつけなければならないのは、将来もメンテナンスをする必要性と、将来再取り付けをする可能性という問題が残り、これを検討していく必要があります。 これについては示談交渉のところで後述します。
当法律事務所の無料法律相談、弁護士受任
被害者は当法律事務所の無料相談にお越しになり、事故状況、これまでの治療経過、自覚症状などをお話いただきました。
お聞きすると、次回の診察(交通事故から約6ヶ月半後)に整形外科は症状固定となるとのでした。
弁護士からは、想定される後遺障害等級と、損害賠償のお話をしました。
今後、弁護士に依頼して進めた方が被害者ご自身にとって利益になるとお考えになり、当事務所弁護士にご依頼を いただきました。
弁護士費用特約の適用はありませんでした。
鎖骨変形後遺障害12級5号の認定
主治医の先生にご作成いただきました後遺障害診断書にはCTにおいて左鎖骨遠位端骨折は偽関節という内容の記載がありました。
初回の無料法律相談で被害者には左肩痛が継続しているとお聞きしており、後遺障害診断の際にはあらためてこのことをきちんと主治医の先生にお伝えするよう弁護士から被害者に申し上げました。 後遺障害診断書の自覚症状欄には左肩痛の記載がありました。
左肩関節の可動域ですが、屈曲運動右180度、外転運動右180度に対し、左はいずれも170度であり、数字上、関節機能障害の後遺障害には該当しない状況でした。
完成した後遺障害診断書とともに被害者からお預かりした画像CD-Rを弁護士が見ると、主治医の先生ご指摘のとおり、CTで左鎖骨遠位端骨折部は偽関節になっていました。
以下は、本件被害者の鎖骨CT画像の一部です。
赤矢印の棒状の骨が鎖骨で、赤丸部分が折れた骨の部分です。
赤丸部分は折れた骨が全くくっついていません。
■後遺障害等級認定結果
鎖骨に著しい変形を残すものとして後遺障害12級5号が認定されました。
[理 由]提出の画像や治療経過等を勘案すれば、左鎖骨遠位端骨折の癒合不全が残存し、裸体となったとき、変形が明らかにわかる程度のものと捉えられる と記載されていました。
左肩痛等の症状については、前記障害と通常派生する関係にある障害と捉えられることから、前記等級(=12級5号のことです。)に含めての評価となるという判断もされました。
→骨折付近の痛みがある場合、これを伝えることは極めて大事です。なぜなら、後の損害賠償問題の行方にかかわってくる可能性があるからです。
後遺障害12級が認定されたことにより自賠責保険会社から 224万円 の支払いを受けました。
示談成立
想定されていたとおりの等級が認定されたことから、最終示談の方向に進むことになりました。
最終示談は以下の表のとおり、これまで支払いずみの金額を除き、587万円(千円以下省略いたします。)の支払いを受ける合意ができました。
示談前に支払いずみであった治療関係費と交通費の金額はお互いに争いはありませんでした。
文書料等、将来のインプラントメンテナンス費用、将来のインプラント手術費用、家事休業損害、後遺障害慰謝料 は、 こちらからの請求を相手は全額認めました。
通院慰謝料(傷害慰謝料)はこちらからの請求をほぼ認定しました。
因みに、本件での整形外科の通院実日数は13日でした。
将来のインプラント費用
交通事故が原因でインプラント治療が必要であるとなった場合、症状固定日以降のメンテナンス費用と、インプラントには耐用年数が問題になるものとして将来の再取り付けのための手術費用が問題になります。
将来のインプラントメンテナンス費用については、1年間にどれくらいの定期検診が必要となるかについて通院先の歯科医院に確認して年間の費用額を算定し、治療終了時点からの被害者の平均余命にあてはまるライプニッツ係数をかけた金額(26万1988円)を請求しました。
将来のインプラント手術費用(再取付費用)については、通院先の歯科医院に耐用年数と費用の見積もりを確認し、治療終了時点からの被害者の平均余命をもとにすると生涯で何回取り付けをする必要性が出てくるかを検討し(2回になりました。)、対応するライプニッツ係数をかけた金額(41万7344円)を請求しました。
上記確認を相手方は応じてきました。
家事労働休業損害
同居家族(母親、きょうだい)の炊事、掃除、洗濯はもっぱら被害者がしていました。
しかし、被害者はこの交通事故により左手首と左鎖骨を骨折して家事労働に支障が生じました。
被害者は有職(兼業)でしたので、この有職分を検討して休業日額を出し、シーネ固定が外れるまでは全く家事ができなかったこともふまえ、 整形外科関係の症状固定日までの日数につき算定し、61万0188円を請求しました。
この金額を相手方は応じてきました。
後遺障害逸失利益
上記470万9438円の計算根拠は以下のとおりです。
394万3500円×0.14×8.5302
●394万3500円とは、賃金センサス(厚生労働省の統計のことです)該当年度の女性労働者全年齢平均収入額です。
●0.14とは後遺障害12級の目安となる労働能力喪失率です(14%)。
●8.5302とは10年のライプニッツ係数です。
上記の計算は、394万3500円という年間の収入(これは家事労働であてはめることになる年収となります。)が、症状固定時から10年間、 14%失われるという意味です。
弁護士としては、本件鎖骨骨折の状態、すなわち偽関節の状態は生涯変わることはありませんので、左肩痛も含めた後遺障害の労働能力喪失期間が10年間だけというのはとても疑問でした。
ただし、相手方は少なくとも示談では労働能力喪失期間10年を超える金額には応じられない態度を示しており、被害者側が10年を超える労働能力喪失期間に基づく計算による金額を主張するには裁判等の手続に移る必要がありました。
もっとも、被害者は裁判等の手続に移ることまでは望んで折られず(早期解決を望んでおられ)、他の損害費目についてはほぼ被害者側の請求に相手が応じてきたこともあり、示談で合意することになりました。
ひとこと
自賠責保険からの224万円の支払いをあわせると、弁護士受任後 811万円(千円以下省略いたします。) の支払いを受けることができました。
当法律事務所では交通事故で鎖骨骨折したケースもたくさん受任してきており、ご依頼をいただいた場合、その経験に基づいて的確に事件をすすめていきます。
交通事故で鎖骨骨折を受傷した被害者の方におかれましては、京都府以外からでも一度当法律事務所にお問い合わせください。
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