対向右折車に衝突されたバイク事故の被害者 腓骨偽関節後遺障害12級・脛骨高原骨折12級のケース(自動車保険ジャーナル掲載)

(令和5年3月30日原稿作成)

交通事故発生、治療経過

 

 被害者乗車バイク(30代会社員男性)が青信号で十字路交差点を直進しようとしたら、対向車線から青信号にて右折してきた四輪車に衝突されたという交通事故でした。

 

被害者はすぐに救急搬送されましたが、事故により一方の下肢を、以下のとおり多発骨折しました。

大腿骨骨幹骨折(たいだいこつ:太ももの骨の中央部分)

膝蓋骨骨折(しつがいこつ:膝のお皿の部分です)

脛骨骨幹部骨折・腓骨開放骨折(=ひざから下にある2本の長い骨が両方とも折れました。)

 

骨折部分には手術が行われ、被害者は長期入院となりましたが、脛骨(けいこつ:ひざから下にある2本の骨のうち太い方の骨のことです)の骨幹部(=長い骨の端ではない部分)骨折の骨癒合(折れた骨がくっつくことです。)がなかなか進まず、脛骨は「偽関節手術」という手術が行われることになりました。

 

この手術後も脛骨はあと3分の1程度がくっつきませんでした(=骨癒合が得られない)。

 

結局、この骨折部に入ったプレートは抜かないことになりました。

 

腓骨(ひこつ:ひざから下にある2本の骨のうち細い方の骨のことです)の骨折については特に措置はされていませんでした。

 

事故から1年10ヶ月後に自宅で脛骨高原骨折を受傷

 

事故から1年10ヶ月後、被害者は小走りをして自宅に戻った際、患部のひざがグキッとなり転倒してしまいました(主治医からは、無理はしないように、徐々に走ったりとんだりしてもいいとは言われていました。)。

 

これにより多発骨折をした側の下肢の脛骨高原骨折を受傷しました (=ひざの関節面の骨折のことです。)。

 

この脛骨高原骨折により、被害者はまた入院をすることになりました。

 

※脛骨高原骨折は交通事故時に受傷したものではありません。この場合、相手方が、事故と骨折との因果関係がないと争ってくる可能性があります。本件では裁判でこの点も争われました。

 

後遺障害診断書のチェック

 

症状固定直前時期に当法律事務所がご依頼をお受けすることになりました。

 

弁護士金田は、ひざの痛みやすねの外側のしびれなどを訴えておられたのをお聞きしており、これをふまえ、主治医の先生にご作成いただいた後遺障害診断書と画像CD-Rを見ました。すると、以下のことがわかりました。

 

●CT画像上、腓骨は自賠責保険がいうところの「偽関節」の状態になっていました。

偽関節(ぎかんせつ)→ 自賠責保険では、折れた骨の部分がくっついているところがなく、完全に離れている状態になっている状態を「偽関節」といいます。

腓骨の骨幹部に偽関節が認められると後遺障害12級8号が認定されることを弁護士金田は過去の事例の経験から熟知していました。

 

●弁護士金田は、脛骨高原骨折した部分のCT画像も見ました。すると、折れたひざの関節面は、段差が生じている状態になっていました(=折れた骨のひざの関節面は平面になっていないということです。)。

 

骨折後にひざの関節面に段差が生じていることが画像上認められたら? → 関節面が「不整」となっており、この部分に痛みやしびれ(=神経症状)が続いていれば、後遺障害12級13号が認定されるであろうことを弁護士金田は過去の事例の経験から熟知していました。

 

 

しかし、後遺障害診断書にはこれらの画像の状態が全く記載されていませんでした。

 

この状態で後遺障害等級認定の申し立てをしても、症状に見合った後遺障害等級が認定されないおそれが高いと考えられます。

そこで、弁護士金田から主治医の先生に対し、今一度患部のCTをご確認いただきたい旨の文書と、ご作成いただいた後遺障害診断書の原本を送付することにしました。

 

その後届いた後遺障害診断書には以下の記載が追記されていました。

○(←左右のうちいずれかの記載が入ります。)膝CT(○○○○年○月○日)

○(←左右のうちいずれかの記載が入ります。)膝内側関節面に約2mmのstep off(=「段差」という意味でとらえていただければと思います。)は残存する

 

○(←左右のうちいずれかの記載が入ります。)腓骨ゆ合不全(ゆごう不全とは、自賠責保険が言うとことの偽関節という意味になります。)を認める

 

※脛骨偽関節については、傷病名欄に記載がされていました。

 

自賠責保険の後遺障害等級認定結果…併合11級

 

自賠責保険は以下の内容の認定をしました。

 

腓骨…骨幹部の偽関節が認められ、癒合不全を残すものと捉えられ、「長管骨に変形を残すもの」として後遺障害12級8号に該当する。すねの外側のしびれ、下肢跛行(はこう:正常な歩行ができない状態のことです。)については、この等級に含めての評価となる

膝蓋骨骨折、脛骨高原骨折得後のひざの痛み…ひざの関節面に不整が認められ、他覚的に神経系統の障害が証明されるものと捉えられ、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害12級13号に該当する。

腓骨の12級8号とひざの12級13号とは、自賠法上、重い等級(すなわち12級)を一つ繰り上げることになるので、併合11級となる。

 

弁護士金田が腓骨偽関節の後遺障害認定要件と脛骨高原骨折後遺障害12級13号の認定要件を知っていたので、後遺障害診断書の記入漏れを防ぐことができました。

もし、これらの認定要件を知らなければ、14級が2 部位認定されるにとどまり、トータルの等級評価も14級にとどまるおそれがあったのです。

 

ひざの関節面の不整と直接関係がある傷病といえば、どうしても脛骨高原骨折になってしまいます。本件で脛骨高原骨折は事故時に発症したものではありませんでしたが、自賠責保険は、後遺障害12級13号を認定してくれました。 同じひざの皿に骨折が生じていた(膝蓋骨骨折)ことや、ひざの近くの複数部位の骨、つまり大腿骨、脛骨骨幹部、腓骨などにも骨折が生じていたことで、ひざの関節面も、交通事故による受傷で脆弱となっていたことを自賠責保険が重視したのかもしれません(確かなことはわかりませんが。)。

 

ただ、一番深刻な部位である脛骨骨幹部骨折については後遺障害等級の対象外という判断でした。

 

 

後遺障害等級異議申立て

 

 脛骨骨幹部骨折の骨の状態からして後遺障害等級認定の対象外であった点について不服を申し立てたいという被害者のご意向を受け、自賠責保険に異議申し立てをしましたが、結果は変わりませんでした。

 

裁判提起

 

上でも述べたとおり、自賠責保険の「偽関節」の考えは、折れた骨の部分がくっついているところがなく、完全に離れている状態になっている状態です。

 

被害者の脛骨はプレートが入っている状態ではありますが、くっついていない部分とくっついている部分がありますので、 自賠責保険の考えでは、これは「偽関節」にはなりません。

 

また、自賠責保険上、被害者の脛骨の状態は、脛骨の変形障害のその他の要件にも該当しないことになります。

交通事故後の脛骨の状態を後遺障害として妥当な評価をして欲しいという被害者の思いを受け、裁判で訴えることになりました。

 

裁判で、相手当事者は、以下の点などを主張してきました。

被害者の過失は15%ある

脛骨高原骨折は事故と因果関係がない

治療期間が長すぎる

 

 

第一審の判決

 

脛骨骨折のくっついていない部分がある点については、後遺障害の損害として計上する評価はしませんでした。

 

自賠責が認定した併合11級をもとに、労働能力喪失率20%、労働能力喪失期間は67歳まで認定しました。

 

治療期間は被害者の主張どおりの認定でした。

 

脛骨高原骨折と交通事故との因果関係については、自宅で転倒した時点では、脛骨のひざに近い部分は交通事故でのケガや手術の影響により脆弱な状態となっていたと推認でき、転倒による脛骨高原骨折と交通事故とには因果関係が認められると判断されましたが、被害者に落ち度があったとも認定され、 転倒した日以降の治療に関係する損害の5割を引くという判断がされました。

 

判決は、物損も含め元本1563万円(千円以下省略します。)と遅延損害金を被害者に支払えという内容でした。

もし、第一審の判決が確定し、間もなく相手方から支払いを受けることになった場合、遅延損害金も含め 約1790万円 の支払になるという内容でした。

 

※第一審判決は自動車保険ジャーナル2124号64ページ以下にも掲載されています。

 

 

控訴審

 

被害者としても、弁護士の観点から見ても、第一審の判決には不服を述べたい点がいくつかありましたので、被害者側から控訴しました。

 

控訴審では和解が成立しました。

 

控訴審では、脛骨高原骨折に関する被害者の落ち度を1割程度という考えが示されたのと、治療費の計上方法に関し第一審で誤りがあり、この点が修正されたこともあり、被害者が 2376万円(千円以下省略いたします。)の支払いを受けるという和解が成立しました。

 

 

被害者5%、相手方95%の過失割合になりました

 

過失割合ですが、第一審では被害者の過失は5%と判断され、控訴審でも被害者の過失を5%として進められました。

 

本件は、別冊判例タイムズ38号(過失の有無や過失割合に関する、いわゆる「教科書本」というべき本のことです。)の【175】図を参考して考えるケースです。

【175】図とは、被害者側の基本過失割合は15%になります。

 

しかし、第一審判決では、被害者バイクの右側面が衝突を受けたこと、相手四輪車の右折開始地点~衝突地点間の距離が8.3メートルと短いことを指摘され、相手四輪が「直近右折」をしたと認定され、被害者側の過失割合が10%減じられる判断となったのです。

 

直近右折(ちょっきんうせつ)…本件では、被害者バイクが停止線を越えて交差点に入る付近まで来ている場合に相手四輪が右折を開始したという意味になります。