顔の傷痕(外貌醜状)後遺障害12級の後遺障害逸失利益

(令和3年9月21日原稿作成)

顔の傷痕の後遺障害

 

交通事故で、顔にケガをしたり、顔を手術をしたりなどで、傷痕(あと)や手術痕が残った場合、外貌(=頭部、顔面、頚部)に醜状が残ったという後遺障害が認定される可能性があります。

 

顔に傷あとが残って仕事に影響するような場合、加害者側(損害保険会社)からは、それに見合った賠償を受ける必要があります。

 

しかし、顔の傷あとの後遺障害も、以下のような問題があります。

 

・後遺障害の等級認定を受ける際に、必要なことが抜けていた

・後遺障害等級が認定されたとしても、相手損害保険会社が、後遺障害逸失利益という損害費目を0円で回答してきた

 

このような困難に立ち向かっていくためには、早い段階からきちんと対策を立てていく必要があります。

以下、弁護士金田が解決した事例をもとにみていきます

 

交通事故発生から当法律事務所の無料相談にお越しになるまで

 

学生(10代男性)であった被害者は、自転車に乗っていたところ、車に衝突されて、顔にケガをしました(他の部位の受傷もありましたが省略いたします。)。

 

救急搬送先から転院となり、顔のキズについては、外用薬(ぬり薬)が出され、延べで数日通院しましたが、あとかたが残りました。

被害者のご家族はキズが残ったことについて今後どうしたらいいかが気になり、当法律事務所にお問い合わせいただき、無料相談におこしになりました。

事故状況、受けたケガのこと、治療経過をお聞きし、今後の問題が、顔のキズあとの後遺障害と、最終の損害賠償になることがわかりました。

本件、弁護士金田がご依頼をお受けすることになりました。

 

顔の傷痕は何科で後遺障害診断書を書いてもらうべきか?

 

傷痕の診療は、形成外科、または 外科 で診ていただくことになります。

弁護士金田の経験上、整形外科は領域外になるということで後遺障害診断書を記載していただけないことが多いです。

病院の皮膚科で診ていただくということも考えられるのですが、皮膚科では自賠責保険の後遺障害診断の取り扱い自体が少ないため、担当医の先生が後遺障害のことを十分把握されていない状況で後遺障害診断書をお願いすることになってしまうおそれがあります。

 

ただ、形成外科、外科といっても、いきなり通院して後遺障害診断をお願いしても、それは無理なお願いになります。

顔のキズあとについえては、事故直後から、形成外科や外科でキズの手当をしてもらい、その後、おそらく外用薬塗り薬を処方され、普段は日焼けを避けるように指示されるという流れになると思います(重傷であれば、手術などが検討されるかもしれません。)が、症状固定までの通院日数は、延べ数日程度になると思います。

 

受任後

 

顔の傷痕については、上で述べたとおり、どこで後遺障害診断書を書いてもらうが問題になりますが、本件は病院の形成外科に通院されており、そこで後遺障害診断書をお願いすることになりました。

ただ、次の診察予約が入っていませんでしたので、予約を入れていただき、書式を持参のうえ受診していただきました。

 

後遺障害診断前の準備活動

 

顔の傷痕に自覚症状がないのかどうかを被害者に確認しました。すると、傷痕には、痛み、感覚が鈍いといった症状があるとのことでしたので、この症状をメモに書いてもらい、診察のときの参考ということで主治医の先生に渡してもらうようにしました。

 

あわせて、診察では傷痕を測定してたただき、そのサイズの数値と図を後遺障害診断書の右上の欄(⑦醜状障害という欄があります。)にご記入いただくことを、主治医の先生に文書で申し入れました。

 

※傷痕の自覚症状をきちんと伝える理由は、見た目の傷痕の状態だけでなく、神経症状が残っている場合に、後遺障害の損害のところで考慮される可能性があるからです。

※傷痕の後遺障害診断書の記載方法をよくご存じない医師の先生もおられます。追記をしなければならないという二度手間を防き、自賠責保険が確認したいことを主治医の先生にお伝えする必要があるために、記入要領もお伝えしました。

 

後遺障害等級の申請前の段階

 

医師の先生が作成された後遺障害診断書には必要最小限の事項が記入されていました。顔の傷痕は長さ3センチメートル、幅3ミリメートルという測定結果でした。

もちろん、傷痕は人目につく程度のものです。

傷痕については、これだけでなく、顔写真を撮影し、後遺障害診断書に添付して提出しました。

 

後遺障害等級認定結果

 

顔の傷痕については長さ3センチメートル以上と判断され、後遺障害12級14号 が認定されました。

傷痕の痛みや感覚が鈍いといった症状も、この後遺障害12級14号に含めての評価となると判断されました。

 

示談交渉

 

後遺障害12級が認定され、最終の示談交渉も代理交渉しました。

しかし、相手方任意保険会社は、顔の傷痕の後遺障害について、逸失利益という損害費目をゼロで回答してきました。

 

後遺障害逸失利益とは?

後遺障害逸失利益とは、等級に該当するほどの後遺障害が残ったため、症状固定日以降の将来的な労働能力の喪失を損害として計算し、今(=すなわち、賠償時に)賠償しましょう というものです。

 

ところが、相手方から、傷痕の後遺障害(醜状障害)の場合、傷痕が残っても、それが体の肉体的な機能に影響しないから、労働能力を失っていないという主張をされることが少なくありません。要するに、後遺障害逸失利益はゼロであるという回答です。

交通事故損害賠償の実務本に、いわゆる「赤い本」というものがあり、ある年の発行版の下巻(講演録編です)に、外貌醜状後遺障害12級のケースで後遺障害逸失利益が否定されている(=後遺障害逸失利益としての損害額は0円)裁判例が全体の半数強ほど列挙されており、損保会社側が、これを主張してくることもあります。

 

顔の傷痕(外貌醜状)の後遺障害逸失利益についての考え

 

体の肉体的な機能に影響がなければ、必ず労働能力の喪失がゼロであるということにはなりません。

体の肉体的な機能に影響がなかったとしても、たとえば、接客や営業で外貌が被害者の労務に影響したような事情があれば、それは労働能力の喪失を認めるべきといえます。

以下の点を十分に検討することが必要といえます

 

●交通事故にあったときにどのような仕事をしていたか

●事故後、その傷痕が残ったことで、実際に、その仕事や収入に影響したかどうか

●事故後、その傷痕が残ったことで、今は仕事や収入に影響がなくても、被害者の年齢や仕事内容などから将来の異動や転職に影響が及ぶと認められるかどうか

※「傷痕が残ったことで」…傷痕の程度、部位も問題になることにご注意ください。
 
※「転職に影響」…学生さんなどの未就労の方については、「就職への影響」という観点からも問題になると考えていただいた方がいいと思います。

 

本件の解決へ

 

本件は、後遺障害逸失利益がゼロ回答となると、これ以上の交渉を続けても平行線のままです。

被害者やご家族と相談のうえ、交通事故紛争処理センターにあっせんの申し立てをすることになりました。

 

被害者は、かねてから鍼灸師(しんきゅうし)を目指しておられ、事故後、専門学校に入学となり、仕事にはまだ入っていませんでした。しかし、学校で、嫌な思いや不安な思いをされました。

また、鍼灸師には、患者との対面カウンセリングという接客業務があり、カウンセリングを受けた患者が施術を受けることに消極的になるおそれがあるという心配点があります。

そのうえ、鍼灸は、治療鍼灸だけでなく、美容鍼灸もあります。鍼灸師の外貌に醜状があれば、美容鍼灸ではなおさらイメージダウンにつながってしまうおそれがあります。

こちらからは、このような、事故後から現在までに実際にあったエピソード、仕事内容上生じるおそれがある不利益、就職活動への不利益といったことを主張していきました(実際にはもっと細かい主張をしております。)。

 

労働能力喪失期間については、被害者側からは、示談段階から、期間をしぼった主張、つまり10年間にとどめた主張にしていました(しかも、まだ学生ですので、就労スタート予定時期までの期間を引いた主張です。)。

 

交通事故紛争処理センターからのあっせん案は以下のとおりです(以下、千円未満省略しています。)。

・後遺障害逸失利益…年収と労働能力喪失期間は被害者からの主張どおりの数字で、労働能力喪失率は7%で計算し、150万0000円の案でした

・後遺障害慰謝料…280万0000円

・傷害慰謝料…92万0000円(通院期間約8ヶ月、通院実日数計19日に加えてケガの程度が考慮されたものと思われます)
 
その他の細かい費目もあわせた後、224万0000円(後遺障害12級が認定され自賠責保険から先に支払われた金額です)を引き、最終支払額 301万円 というあっせん案でした。

この金額で双方が合意でき、解決に至りました。

弁護士金田受任後、被害者は、525万0000円の賠償金を得たことになります。

 

ひとこと

 

顔の傷痕で後遺障害等級が認められても、後遺障害逸失利益という損害を損保会社が激しく争ってくることが少なくありませんが、損保会社のスタンスにかかわらず、被害者のお仕事の現状(就労前であれば、日常や学校生活の現状も含みます。)をきちんと分析し、将来的な見通しに問題がないかをきちんと考えて、方向性を出していくことが大切です。

弁護士金田は少なくとも上記の程度の主張はしていきます。