大腿骨頚部骨折 股関節可動域制限 下肢短縮 後遺障害9級事例
被害者
80代男性で、年金と自営による収入で生活されていました。
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交通事故が発生した状況
信号のない交差点の直進する車両同士が衝突した交通事故でした。
被害者は、原付バイクに乗り、交差点(被害者の進行する交差道路の方だけ一時停止標識がありました。)で一時停止した後、そのまま直進していたところ、左から来た相手方の車に衝突されました。
- 被害者は原付バイクとともに転倒しました。
受傷、治療
被害者は、病院に救急搬送され、左大腿骨頚部骨折と診断されました。
相手方は、この交通事故に関して、被害者の過失が65%であると言い、治療費の支払いを拒否してきました。
被害者は、仕方なく、自分が費用を負担して治療を続けることになりました。
被害者は、救急搬送先の病院に1ヶ月余り入院となった後、転院後2ヶ月ほどリハビリ入院することになり、その後、通院リハビリをしながら救急搬送先の病院で定期的に診察を受けることになりました。
骨折部分には、髄内釘(ずいないてい:骨髄の中に入れる金属棒のことです)を入れて骨折部分を固定することになりました。ご年齢のこともあり、結局、髄内釘は抜かずにそのままということになりました。
●大腿骨頚部骨折(だいたいこつけいぶこっせつ)
ふとももにある長い骨のことを大腿骨(だいたいこつ)といいます。
- 大腿骨は股関節からひざまであります。このうち、股関節部分にある丸い形をした先端のことを大腿骨頭といいますが、その骨頭の下部を大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ)といいます。
- この部分を骨折すると、症状が重い場合には、人工骨頭に置き換える手術が実施されることになります。もし、人工骨頭に置き換えることになってしまった場合には、少なくとも後遺障害10級認定要件を満たすことになります。
当法律事務所へのご来所(無料相談)
●ご来所のきっかけ
結局、被害者は、病院からも治療が終了ということを言われました。
これからどうしたらいいかについて、被害者は、自分に支払った治療費などについては、相手方の自賠責保険会社に請求する方法があるということがわかりました。
被害者は自賠責保険に連絡しましたが、自賠責保険会社から、1ヶ月以内に請求してくださいと言われ、困ってしまいました。
被害者は困り、弁護士をさがすことになり、当法律事務所にご連絡いただき、無料相談にお越しになりました。
- ●被害者から相手自賠責保険会社に対する請求(被害者請求)
- 被害者から相手自賠責保険に対し、治療費などのけがに関する損害の請求は、3年で消滅時効にかかります(ただし、後遺障害関係の損害は別途の考慮が必要になります。)。
本件被害者が当法律事務所の無料相談にお越しになった時点では、交通事故から2年と少し経過していただけで、まだ消滅時効まで時間は十分にあるという段階でした。
当法律事務所弁護士は、自賠責保険会社曰く1ヶ月以内に請求してくださいとのことはおそらく間違いだろうと思いましたので、この旨被害者にお伝えしました。受任後、弁護士が自賠責保険会社に確認したら、やはりそのような期間制限はないとのことでした。
※自賠責保険には、時効中断制度があります。書式を送ってもらい、期限までに必要書類をそろえて提出すれば、時効を中断することができます。 くわしくは当法律事務所にご相談ください。 - 無料相談では、弁護士が事故状況、通院状況、傷病名、症状などをお聞きしました。
- お聞きしていると、被害者には骨折部分の痛みが残っていました。
そのほか、骨折した側の股関節の可動域制限、下肢の短縮といった障害が残っていないかが気になりました。しかし、被害者は後遺障害等級のことを全くご存じありませんでした。この点も弁護士が説明いたしました。
- 当法律事務所弁護士がご依頼をお受けすることになり、相手自賠責保険会社に治療費や傷害慰謝料の請求のほか、後遺障害等級認定の申請を行う方針になりました。
弁護士受任後
- 自賠責保険会社に請求するには必要資料を取りそろえる必要があります。
本件では、特に、自賠責様式の診断書・診療報酬明細書も全部そろっておらず、肝心の後遺障害診断もまだだったので、ここから始めることになりました。被害者の症状経過、所見については、ご自身でもわからないことが多く(多くの被害者がそうだと思います。)、主治医の先生が一番よくわかっておられること、そして、ご年齢もありご自身の症状をうまく伝えることが難しいと思われましたので、後遺障害診断の診察の際には、当法律事務所弁護士が同席させていただくことになりました(診察日の前に被害者から確認のご連絡を入れていただきました。)。
病院同行
診察では、被害者から事前にお聞きしていた骨折部分の痛みなどの自覚症状を主治医の先生にお伝えしました。
あとは、主治医の先生に、骨折部分の骨癒合の状況などをお聞きし、最後に、股関節の6つの運動の測定と下肢長(両下肢の長さ)の測定をお願いいたしました。
後遺障害診断書の主な記載内容
以下のとおりです。
自覚症状:左股関節痛(その他の記載は省略いたします。)
短縮欄:右下肢長83cm 左下肢長82cm(部位と原因欄は「骨折のため」という記載がありました。)
股関節の運動欄(自動値は省略いたします。)
他動
右 左
屈曲 90度 95度
伸展 10度 10度
外転 45度 20度
内転 30度 20度
外旋 45度 0度- 内旋 40度 5度
自賠責保険への請求
必要書類が全てそろいましたので、弁護士は代理して自賠責保険会社に資料を全て送りました(被害者請求)。
調査
自賠責保険会社に請求した後、すぐに、自賠責保険調査事務所から連絡があり、追加の資料提出を求められました。
弁護士は、被害者に自賠責の 重過失減額 が適用されるかどうかが問題になっているのだと感じ取りました。●重過失減額とは
自賠責保険会社に対しけがの損害を請求し、被害者側に7割以上の過失があると認定されると、自賠責保険金が減額されて支払われることになります。
自賠責調査事務所から送られてきた定型の書式には被害者にご確認いただき、ご記入いただきました。
弁護士は、事前に事故現場に行き、写真を撮影したうえ、刑事記録も取り寄せていました。その他の資料もそろえ、本件は、少なくとも、重過失減額が適用されるべき事案ではない旨弁護士の意見書も提出しました。自賠責保険の認定結果(後遺障害部分も含む)
ほどなくして、自賠責保険会社から結果が返ってきました。
治療費や傷害慰謝料などの傷害部分については120万円満額の支払いを、後遺障害については併合9級が認定され、600万円の支払いを、
- それぞれ受けることができました。
- 重過失減額の適用もありませんでした。
併合9級の内容
- ●股関節可能域制限
まず、左股関節の可動域制限で後遺障害10級11号が認定されました。
上の後遺障害診断書の可動域の数字をごらんいただくと、外転運動と内転運動の合計値が左は40度(20度+20度)、右は75度(45度+30度)であり、受傷した側である左の可動域は、健側である右の可動域の2分の1よりも少し多い数字になっています。後遺障害10級10号は、これが2分の1以下になっていることが要件なので、このままでは10級の要件をみたしません。ところが、股関節の外転・内転運動の場合、2分の1を超えた程度が5度以下なら、参考運動(外旋・内旋運動のことです)が2分の1以下になっていれば数字上の等級認定要件も満たすことになります。
本件では、外旋・内旋の合計値は、受傷側である左が5度(0度+5度)で、健側である右が85度(45度+40度)ですので、2分の1以下になっています。
よって、後遺障害10級11号が認定されました。
※ ただし、可動域制限の後遺障害が認定されるには、数字の要件を満たすだけでなく、そのような可動域制限が発生する器質的損傷が認められる必要があります。
●下肢短縮
次に下肢の短縮ですが、上の後遺障害診断書の下肢の長さの記載をごらんいただくと、受傷側である左の下肢が骨折のために、健側である右よりも1cm短縮となっています。
この点、後遺障害等級認定結果では、左大腿骨頚部骨折が認められ、1cmの短縮が生じていることから後遺障害13級8号が認定されました。●股関節可動域制限と下肢短縮の等級処理
股関節可動域制限10級11号と下肢短縮13級8号は、併合処理されることになりました。
つまり、この場合、重い方の等級が一つ繰り上がりますので、併合9級になりました。●自賠責保険からの支払額は600万円になった理由
後遺障害9級の自賠責保険金額は616万円です。
しかし、今回の10級11号に関する保険金は461万円であり、13級8号に関する保険金は139万円になり、これらをあわせると600万円となり、上記616万円よりも低くなります。
この場合、低い方である600万円が支給金額になります。
被害者に重過失があって減額されたのではありません。 ひとこと
本件の被害者は、大きなけがを負ったにもかかわらず、ずっと自己負担の支払が続き、わからないことだらけの状態でした。
このような状態から、弁護士がご依頼をお受けし、上記のとおりの結果を導くことができました。