交通事故 家事専業主婦の6ヶ月の休業損害が105万円認められる
交通事故の休業損害の対象になる家事労働とは?
わかりやすくいえば、家族のためにする家事労働が休業損害の対象になります。
ですので、一人ぐらしの方が、自分のためにする食事づくり、そうじ、せんたくは休業損害の対象にはなりません。
家事労働が交通事故の休業損害として請求できるか?
家事労働を(たとえば家事代行業などの)他人にたのむと費用がかかります。
家事をしている家族は、他の家族から報酬をもらいませんが、いいかえれば、家族のために報酬に見合う利益をキープしているといえます。
ということは、家事をすることで利益を得たとみることができます。もし、交通事故でけがをしたために家事労働の全部または一部ができなくなった場合、家事労働利益の損害が発生したということで休業損害の請求をすることができます。
家事の休業損害は 最高裁判所の判例が認めています。
家事労働の休業損害の計算の仕方
家事労働の休業損害は、交通事故でけがをしたために家事労働ができなかった期間について認められます。
ただし、現実には、けがの程度や症状の程度もケースごとによって異なるため、
・1日のうちでどの程度家事労働ができなかったか
- ・家事労働がどのくらいの期間できなかったか
- という問題を、個々のケースごとに整理していく必要があります。
これらはとても難しい問題です。大まかな考え方としては、実際の裁判の経験をふまえると、以下の2つのうちいずれかがとられる傾向といえます。
1、逓減式(ていげんしき)の考え方
基本的な計算式は 1日の休業日額×相当と認められる休業日数 になります。
1日の休業日額は、裁判基準では、賃金センサス(厚生労働省が発表する賃金統計のことです)の女性労働者学歴計全年齢平均賃金を基礎として計算することになると思われます。
平成29年賃金センサスの例をあげますと、女性労働者学歴計全年齢平均賃金は377万8200円ですので、これを365で割った1万0351円が基本的な1日の休業日額になります。しかし、けがの程度やけがの内容によっては、治療を続けることで徐々に快方に向かうということになると、時間が経つごとに家事労働制限の割合(これを労働能力喪失率といいます。)が減ってくるので、これにもとづいて計算をしていく考え方です(もちろん、重傷事案では、長期間にわたり家事労働能力が100%失われたというケースもあります。)。
これが、逓減式(ていげんしき)という考え方です。 - 計算例を挙げます。
交通事故でけがをし、事故後の60日は100%家事ができないと認められ、その後の60日は家事労働が60%できないと認められ、その後の60日は家事労働が30%できないと認められたとします。
上記の日額1万0351円を基礎として考えると、以下のとおりの計算になります。
1万0351円×60日+1万0351円×0.6×60日+1万0351円×0.3×60日=118万0014円2、実際の通院日数を休業日数として計算する考え方
この場合でも、家事労働が何割か制限されたとして計算する考え方もあります。
当法律事務所の解決事例
- ● 被害者
事故時30代女性の専業主婦が被害者でした。
● 事故状況
自動車を運転し、道路を走行していたら、道路外の施設から出てきた自動車に衝突されるという交通事故にあいました。
この衝突で、被害者の車の側面は明らかに凹みました。
被害者の車の修理代金は決して安い金額ではありませんでしたが、修理業者にはいったんご自分で負担されました。
車の損害についても相手方任意保険会社が過失割合を争ってきて譲りませんでした。結局、けがの損害と一緒に話をすすめることになりました。 - ● けがと通院治療
この事故により、被害者は、頭痛、頚部の痛み、腕や指のしびれ、腰の痛み、あしのしびれなどを発症しました。
- 事故翌日に大きな病院に通院され、その後、近くの整形外科医院に通院されることになりました。
- ただ、腰やあしの症状は、初診からうまく伝わっておらず、事故から3週間後に治療が開始されました。腰やあしについては、結局後遺障害等級は認定されませんでした。
- ※ 交通事故にあったら、事故後に痛みやしびれなどの症状があればすぐ病院か医院に通院することはもちろん大切ですが、痛みやしびれなどがある部位は、初診時にもらさず医師の先生に伝えることが大事です。
痛みやしびれなどをきちんと伝えないと、伝えていない部位については症状をなおすための治療がそもそも始まりませんし、もし症状が残っても、後遺障害として考慮されない可能性が高まります。 - 被害者の手足のしびれがきつかったので、事故から3週間後には、末梢性神経障害性疼痛の治療薬の処方もされました。
● 治療中の家事労働への支障
被害者には夫と3人の小学生のお子様がいました。
しかし、この事故でけがをしたために、炊事、そうじ、せんたく、買い物、お子様の世話といった家事に大きな支障がでました。被害者は、事故から約6ヶ月で症状固定(=相手方が法律上治療費を負担するべき終了地点とご理解いただければと思います。)となりましたが、その間、大きな病院に2日、整形外科医院にリハビリ通院を計90日、別の病院にMRI検査のために2日通院されました。
自宅から出て、通院して自宅に返ってくるまでは時間を要しますが、この間、家事労働はできません。
また、被害者は、自宅にいるときでも症状がきつくて横になって安静にしている状態が続きました。このような状態を見て、夫は、仕事を休んだり、早く切り上げたりして被害者の代わりに家事を行ったりしました。
治療中の家事労働がどのような状況だったのか、被害者ご自身が、それが難しいならご家族がメモをとっておくことが望ましいと思います。
そのように整理した家事労働の支障を、通院先の主治医の先生にも伝えておいた方がよいでしょう。● 当法律事務所の無料相談、弁護士がご依頼を受ける
そうこうしているうちに、被害者は、相手方任意保険から6ヶ月で治療費を打ち切ると言われました。
それまでにも被害者は別の法律事務所に相談されていたのですが、ご自分がかかえている疑問が解決しない状態でした。
その後、当法律事務所にお越しになりました。お越しになったのは、症状固定日となり、次回、後遺障害診断をする直前のタイミングでした。
被害者の疑問は、後遺障害診断書について、全体的に何を書いてもらったらいいのかわからないというものだったのですが、特に困っておられたのは、主治医の先生から自覚症状をくわしく書いてきて欲しいと言われ、何を書いていいのかわからないという点でした。
当事務所は、事故状況、通院状況をお聞きし、相談時にご持参いただいたMRI画像も確認させていただきました。
弁護士がMRIのCD-Rを見たら、異常がはっきりわかる状態でした。検査報告書も見せてもらいましたが、頚部も腰部も椎間板ヘルニアと診断されていました。
弁護士はご依頼をお受けし、自覚症状をもれなくお聞きし、その伝え方をアドバイスし、後遺障害診断にのぞんでいただきました。
※ この整形外科は弁護士の同行をご了解いただけませんでしたので、その他の点も含めて必要なアドバイスを行いました。
後遺障害診断書を見ると、画像所見は記載されていましたが、知覚検査以外の神経学的検査は全て正常でした。
後遺障害等級の申請は弁護士が代理しました。
最初は、なぜか非該当でした。
その後、追加の医証を主治医の先生にご作成いただきました。
この医証は当初から症状が一貫している旨記載されていました。
異議申立てをしたところ、くびの痛み、頭痛、腕や指のしびれなどに関して症状の一貫性が認められ後遺障害14級9号が認められました。- ● 示談交渉が決裂し、交通事故紛争処理センターへの申立て
示談交渉も当法律事務所が代理しましたが、各損害の金額や過失割合で大きな開きがあり、示談は決裂になりました。
被害者とご相談のうえ、交通事故紛争処理センターに申し立てることになりました。※以下の金額は千円以下省略しております。
交通事故紛争処理センターでは、最終で255万円を支払うというあっせん案が出て、合意に至りました。
自賠責保険からの75万円の支払を含めると、330万円の支払を受けることができました。過失割合は、相手はこちらに20%の過失があるという主張を続けてきましたが、結局、こちらの過失は15%というあっせん案でした。
主な損害費目は以下のとおりです。
後遺障害逸失利益 81万円
377万8200円の年収の5%が5年間失われた計算です。
これは、症状固時以降の将来の家事労働能力が失われることの損害です。傷害慰謝料 100万円
後遺障害慰謝料 110万円
家事休業損害 105万円
休業損害の計算方法ですが、まず、377万8200円を365日で割って休業日額を出します(1万0351円)症状固定日までのうち、最初の1ヶ月を上記日額の90%
次の1ヶ月を上記日額の80%
次の1ヶ月を上記日額の70%
次の1ヶ月を上記日額の50%
次の1ヶ月を上記日額の30%
次の1ヶ月を上記日額の10%
という計算で、あっせん案は休業損害を算定されました。
この計算で家事休業損害が105万円になります。 - これは上で述べた逓減式(ていげんしき)の計算方法です。
このケースは6ヶ月間で105万円の家事労働休業損害がみとめられました。
- このように、家事労働の休業損害は大きな金額になることがあります。
- ですので、家事労働分が低く見積もられていないか十分に注意する必要がありますし、他方、落とし穴があるケースもあります。
家事労働の休業損害にくわしい弁護士に相談されることをおすすめいたします。
- ● 示談交渉が決裂し、交通事故紛争処理センターへの申立て
- 被害者の手足のしびれがきつかったので、事故から3週間後には、末梢性神経障害性疼痛の治療薬の処方もされました。