10代男性 線状痕の外貌醜状 後遺障害9級認定 1435万円獲得事例

(令和7年11月25日原稿作成)

 

事故状況

 

自転車に乗っていた被害者(10代男性・中学生)と、四輪車とが衝突した交通事故でした。

 

この交通事故で被害者は受傷し、病院に救急搬送されました。

 

救急隊が到着したとき、意識障害のレベルはJCS-Ⅰ(開眼はしているが意識清明とはいえない状態のことをいいます。)でしたが、けいれんが起こり、意識レベルが低下したようでした。

 

被害者は事故から約2週間で退院となりました。

 

 

 

 

 

ご紹介により当法律事務所にお越しいただきました

 

当法律事務所が交通事故後遺障害案件のご依頼を受けて解決した過去のあるご依頼者の方と、被害者の親御様がお知り合いだったとのことで、当法律事務所にご連絡をいただき、被害者の退院翌日に、親御様が当法律事務所にお越しになり、ご相談をお受けしました。

 

 

ご相談の中で、急性硬膜外血腫、頭蓋骨骨折、鼻骨骨折などの確定診断がされていたことや、入院中、けいれんもあり、全日、親御様が付き添ったことがわかりました。

 

 

また、おでこに長い線になっている傷あとがあることもわかりました(頭蓋骨骨折と関係する部位になります。)。

 

 

また退院後は、入院先病院の脳神経外科や形成外科での診察が予定されていることもお聞きしました。

 

 

 

ただ、被害者ご本人の症状をもっとくわしく知る必要があったことと、おでこの傷がどの程度のものなのかを実際に確認する必要があったので、次はご本人ともお会いすることにしました。

もちろん、事故の当事者と顔を合わせてお話をすることは最も重要なことです。

 

 

 

 

 

被害者ご自身との面談

 

お住まい場所のご事情もあり、弁護士金田がご自宅にうかがうことになりました。

 

 

無料相談の中で、親御様には以下の点をお伝えしました。

 

●事故前後の比較で被害者に、もの忘れ、記憶力の低下、怒りっぽくなったり、幼くなった、意欲や集中力の低下などの様子がうかがえないか、継続して観察していただいた方がいい

 

●事故後、被害者に、嗅覚や味覚が低下しているようなところはないか、確認いただいた方がいい

 

●おでこの傷あとに、痛み、しびれ、感覚が鈍磨しているといった症状がないか確認いただいた方がいい

 

 

 

被害者ご本人とお会いしました。

 

 

被害者のおでこのきずあとをメジャーで測定し、写真を撮影させていただきました。

おでこのきずは、以下のとおりのあとかたがありました。

※以下の絵は頭髪等を省略し、簡略化したものです。

 

この線状のきずあとは、厚さは3ミリメートル程度、長さは明らかに5センチメートルを超えるものでした。

 

さらに、おでこのきずあと部分については、感覚が鈍磨している感じがあるということでした。

 

 

 

そのほかの症状としては、被害者はにおいを感じにくくなっているということでした(嗅覚低下)。

 

また、あとから親御様に聞いたところでは、被害者には疲れやすい、集中力が低下した 忘れっぽい様子がみえるということでした。

 

 

 

 

 

 

線状痕が残った外貌醜状の後遺障害等級

 

人目につく程度以上のもので、長さ5センチメートル以上ある線状痕が残った場合(ただし、頭髪に隠れる部分は除外されます。)、後遺障害9級16号が認定されます。

 

本件の被害者の線状痕もはっきり人目につく程度の状態であり、長さ5センチメートルありました。

 

ただし、まだ事故後間もない時期なので、治療によりきずあとが一定程度は回復する可能性が考えられるのですが、あまりにもあとかたがはっきりしているので、時が経過しても5センチメートル以上の線状痕が残ることは免れないといえるものでした。

 

 

そうすると、この後遺障害9級16号の認定を意識しておく必要があるということになります。

 

 

これに加え、きずあと付近に何か症状が残っているかどうか、被害者に確認しておく必要があります。

なぜなら、外貌(がいぼう)醜状で自賠責保険の後遺障害等級が認定されたとしても、示談や裁判などでは、加害者側から後遺障害逸失利益はない(損害額ゼロである。)と争われることが多く、きずあとに神経症状が残り、これがために労働能力への影響が及んでいるのであれば、これも主張していく必要があるからです。

 

本件被害者はきずあとに感覚鈍磨があるとのことですので、これが残っていれば最終的に主張していくべきことになります。

 

 

 

本件については当法律事務所がご依頼を受けることになりました。

 

 

 

 

 

当法律事務所受任後

 

ご依頼を受けた後、入通院先の病院に、受傷直後の被害者の意識障害の程度を文書で調査しました。

 

 

病院に搬送後、被害者の意識レベルはJCSで100(被害者に刺激を与えても目を覚まさず、払いのけるような動作をするという状態です。)になったようでした。

しかし、翌日には意識清明になっていたとのことでした。

 

 

 

退院後も被害者はこの病院の脳神経外科の指示で、頭部CT、頭部MRIが撮影されましたが、血腫は吸収され、最終評価で経過良好、以降は有事再診ということになりました。

 

 

 

このように頭部関係は画像上の問題がなく、後遺障害診断に至らないと医師の先生が判断されたため、もの忘れ等の症状は、様子を見ることになりました。

 

 

 

嗅覚低下については他の医院に移ることになり、検査と投薬治療が行われ、かなりの改善があり、結局こちらも経過を観察していくことになり、自賠責保険後遺障害の問題は生じませんでした。

 

 

 

一方、おでこのきずあとについては、時が経過してもあまり改善せず、事故から7ヶ月弱の時点で症状固定となり、診ていただいていた形成外科にて後遺障害診断をしていただくことになりました。

 

 

 

後遺障害診断の直前、被害者、親御様とお会いし、再度、おでこの傷跡を確認させていただき、弁護士金田がそのきずあとの写真を撮影しました。もちろん、きずあとはメジャーで測定した状態での撮影です。

 

 

 

 

 

 

外貌醜状に関する後遺障害診断書のポイント

 

●きずあとに神経症状がある場合、自覚症状をきちんと担当医の先生にお伝えいただく

 

●きずあとを担当医の先生に測定していただき、後遺障害診断書にきずあとが残っている部分を図で書いていただき、きずあとのサイズを記入していただく

※線状痕であれば、長さと幅の測定が必要になります。

 

 

作成された後遺障害診断書を見ると、本件被害者のおでこのきずあとは、長さ6.5センチメートル、幅3ミリメートルと記載されていました。

 

さらに、きずあとの部分の一部には、知覚鈍麻がある旨自覚症状欄には記載されていました

 

 

 

弁護士金田は、この後遺障害診断書をお預かりし、これとともに、弁護士金田が症状固定直前に撮影した被害者のおでこのきずあとの写真(メジャーで測定した状態の写真)を一緒に自賠責保険に提出しました

 

 

 

 

 

醜状痕に関する自賠責保険後遺障害審査

基本的には、自賠責調査事務所により、面談と、きずあとの測定が行われます。一時期、コロナ禍の影響が大きいときには、面談をなしにして、きずあとを測定した状態の写真を提出する方法がとられていましたが、最近では面談を再開されています。

 

 

 

 

 

 

後遺障害9級16号の認定

 

おでこの線状痕について自賠責保険は、「人目につく程度以上ものと認められ、長さ5センチメートル以上と捉えられることから、外貌に相当程度の醜状を残すもの」として後遺障害9級16号に該当すると判断しました。

また、自賠責保険は、線状痕付近の知覚鈍麻について、この後遺障害9級16号に含めての評価となる旨判断しました。

 

 

後遺障害9級が認定されたことで、自賠責保険から 616万円 の支払いがありました。

 

 

弁護士も被害者ご家族も想定していた後遺障害等級が認定されたので、最終示談交渉に入りました。

 

 

 

 

 

 

最終示談

 

後遺障害等級が認定された場合、後遺障害逸失利益という損害が問題になります。

 

これは、後遺障害が残ったことにより、症状固定日以降の将来に向けて労働能力が失われるであろうから、その将来の損害を賠償するという内容のものです。

 

ところが、外貌醜状障害の後遺障害については、(醜状部分に痛みなどの神経症状が残るという点はおいておきますが)身体的な機能が何か損なわれたわけではなく、外見の見た目の問題になりますので、加害者側から労働能力を喪失させるものとはいえないから、後遺障害逸失利益が認められないという主張がされることがあります。

 

 

ですので、外貌醜状の場合、後遺障害逸失利益認められるべき理由を被害者側がていねいにきちんと主張していくことが重要になります。

 

 

本件では、こちらから以下の主張をしていきました。

●上記の顔の図のとおり、線状痕が目立つ部分に、長さ6.5センチメートル、幅3ミリメートルも顔を縦断するように残っており、程度も目立つものであり、時の経過によって改善するようなものではないこと(加害者側任意保険会社には写真も開示しました。)

 

●被害者は学校でも他人からきずあとのことを言われていやな思いをしていること

 

●示談の段階でも、就労スタートまではまだ先の話でしたが、線状痕が顔に残っていることで、将来の職業の選択肢がせまくなり、就職活動にも不利益を及ぼすおそれがあること

 

●線状痕付近に神経症状(知覚鈍麻)も残っていること

 

●示談の段階でも裁判例を加害者側任意保険会社に送り、同様の事例があることを主張していきました

 

※示談時にすでに就労している場合には、また別途の考慮が必要になりますし、現に就労されている場合には、その就労職業の内容も問題になってきますのでご注意ください。

 

 

 

結局、外貌醜状の後遺障害逸失利益については以下の計算式に基づく金額で話を進めることができました。

 

基礎収入590万8100円×労働能力喪失率0.09×労働能力喪失期間21.998=1169万6975円

 

ただし、こちらの過失については25%として話を進めることになり、最終支払額 819万円(千円以下省略いたします。)の支払いを受ける合意ができ、示談が成立しました。

 

当法律事務所弁護士受任後、1435万円 の支払いを受けることができました。

 

 

 

 

 

 

ひとこと

 

本件では入院があり、差額ベッド代の支払いを受けることができました。

入院付添看護費は日額6000円で全日、通院付添看護費も日額3000円で全通院日数分を前提とした金額による示談合意ができました。

※ただし、被害者側の過失割合分は引くことになります。

 

外貌醜状の後遺障害逸失利益については、むずかしく、きびしい問題となっています。

個々のケースごとに、後遺障害逸失利益としての損額を主張することが可能なケースなのかどうか、ことこまかに検討することが不可欠です。