交通事故 むちうち 症状固定日までの通院日数60日 自賠責保険・共済紛争処理機構により後遺障害14級9号が認定されたケース

(令和6年10月14日原稿作成)

 

後遺障害等級結果に対する3種類の異議申立て

 

自賠責保険の後遺障害等級結果に納得がいかない場合 、不服申し立ての手段には以下の3つがあります。

・自賠責保険に後遺障害等級結果に対し異議申し立てを行う。
・自賠責保険・共済紛争処理機構に対し不服申し立てを行う
・裁判(訴訟)の申し立てを行い、正当な等級を主張していく

 

しかし、まずは、それまでの経過をできるだけ検討し、不服の申し立てをして結果が変更になるみこみがあるかどうかの見通しを立てることが重要です。

 

これ以上不服を申し立てても結果が変更される可能性が極めて低いケースなら、異議申し立てをあきらめる方向で考えざるを得ません。

 

 

本件は、自家用車に乗っていたところ後方から追突され、むちうち、腰椎捻挫を受傷した被害者の例です。

初回の後遺障害等級結果は非該当で、自賠責保険に異議申し立てをしても非該当の結果は変わりませんでした。

しかし、その後に 自賠責保険・共済紛争処理機構に対し不服申し立てを行った結果、くびの後ろの痛みについては後遺障害14級9号(痛みが残ったという後遺障害のことです。)が認定された事例です。

 

 

 

事故状況、事故直後の治療経過、弁護士受任

 

車を運転していた被害者(40代女性会社員)は、渋滞により前車に続いて停車したとき、後方から車に追突されるという交通事故にあいました。

事故直後から当法律事務所にメールでお問い合わせをいただきました。

 

 

お越しいただくまでに、今後の治療をどうするかについてご存じでありませんでしたので、弁護士からあらかじめお電話でアドバイスをしました。

 

 

また、相当大きな衝撃を受けてくびがとても痛いとおっしゃっていました。くびは、シーネで固定されたとのことでした。ですので、早めに首のMRIを撮ってもらった方がいいことも弁護士からお電話でアドバイスをさせていただきました。

 

 

その後、お越しいただいてご相談をお受けしました。

 

持参いただいた被害者の車の損傷写真を見ると、後部は原形をとどめないほど大破していました。

首や腰に相当大きなエネルギーを受けたことになります。

 

弁護士費用特約をかけておられたので、すぐに弁護士金田がご依頼をお受けすることになりました。

 

受任後に取り寄せたMRI画像を見ましたところ、第5頚椎・第6頚椎の椎間板が後方にふくらんでいました(ただし、後遺障害12級13号目線になるほどのものではありませんでした。)。

 

 

このまま治療を続けて痛みが残った場合、後遺障害14級9号の認定を目指していくという方針になります。

 

※余談ですが、被害者には腰の痛みがあり、治療終了間際の時期に腰椎のMRI検査が行われました。これをみると、くびよりも異常の程度が大きかったのですが、腰の訴えが交通事故から11日目であったことが主な理由で、結局、 自賠責保険・共済紛争処理機構でも腰は後遺障害非該当の判断となりました。

 

 

 

本件をふまえ、事故直後時に被害者が気をつけるべきこと

 

●痛みがあるところはどこかを冷静になって把握し、初診から全て医師の先生に症状を伝える。

くびと腰について、どちらか一方の痛みが事故直後からあったのに、初診で伝えられず、後になって初めて医師の先生に訴えるケースが少なくありません。

あとから訴えた痛みが残っても、後遺障害等級が認定されない可能性が高まりますので、十分ご注意ください。

 

●くびや腰の痛みが強い場合や、手足のしびれが強い場合は、事故後間もない段階でくびや腰のMRI検査を医師の先生とご相談していただく方がいいと思います。

なぜなら、痛みの後遺障害12級13号が認定される可能性に備える必要があるからです。これは早期に動くべき事がいくつかあります。

 

●痛みがあるのであれば、リハビリ施設のある整形外科で通院を継続する必要があります。総合病院では捻挫・打撲のリハビリをしてくれないところが多いですので、開業医の整形外科(整形外科的なリハビリテーションをする外科でもいいです。)をさがすことになるかと思われます。

リハビリの開始が遅れますと、本来、認定されるべき後遺障害14級9号が認定されない結果に終わるおそれもあります。

 

 

 

 

その後の治療経過

 

被害者は母親と2人で暮らしていたのですが、母親は認知症をわずらっていたため、仕事が終わるとすぐに自宅に帰り、母親の世話をしなければならない立場でした。それゆえ、整形外科への通院が思うように行けない状況でした。

 

症状固定日までの通院期間は180日(6ヶ月)でしたが、その間の通院日数は60日でした。

さらに、事故から5ヶ月目の1ヶ月間の通院日数が8日にとどまっていました。

 

 

 

通院期間180日の通院日数が60日では少ないか?

 

これについては、色々と意見があると思いますが、弁護士金田のこれまでの経験上、特段の事情がないのに、捻挫・打撲による痛みなどが続いているのに、180日間の通院日数が60日(もちろん、入院もなしということです。)というのは、後遺障害等級認定を受けるうえで少ないと言わざるを得ません。

 

この通院日数では後遺障害が非該当と判断される要素になります。

 

これも弁護士金田の経験上から申し上げますと、捻挫・打撲のケースで1ヶ月間の通院日数が10日に満たない月がある場合、かなり高い確率で後遺障害非該当の判断が下されています(特に事故から早い段階の月の通院日数が少ない場合にはなおさら後遺障害非該当と判断されやすいです。)。

 

 

 

 

初回の後遺障害非該当の理由は?

 

症状固定となり、後遺障害診断が行われました。被害者がリハビリ通院をした整形外科医院の院長先生は、事細かに後遺障害診断書を記載してくださいました。

 

この後遺障害診断書に加え、事故後の被害車両の損傷写真や、MRI画像をキャプチャーした写真などを提出しましたが、初回の後遺障害等級認定結果は非該当でした。

 

本件被害者の場合、MRI画像からして後遺障害12級13号の可能性はないと考えており、後遺障害14級9号が認定されるかどうかかと考えておりました。

 

この後遺障害14級9号すら否定した理由は、くびについても腰についても、治療状況、症状経過でした。

 

治療状況という言葉は、事後後間もない段階でも通院が少なかったり、全体の通院日数が少なかったりといった場合に指摘されるキーワードです。

 

本件で後遺障害非該当になった理由は、60日という通院日数と事故から5ヶ月目の1ヶ月間の通院日数が8日にとどまっていたことしか見当たりません。

 

 

 

 

自賠責保険に対する後遺障害異議申立て(非該当)

 

初回の後遺障害非該当の結果を受けて、被害者と今後の方向性について相談しました。回数は少ないものの症状固定後も自費で整形外科に通院されていたこともあり、自賠責保険に異議申し立てをすることになりました。

 

主治医の先生に追加の医証の作成をお願いし、症状固定後も通院しているほど痛みが続いてることも主張して異議申し立てを行いました。

 

しかし、今回も、くびも腰も後遺障害非該当でした。

 

■異議申立てで非該当とされた理由は?

提出の診断書等からうかがわれる本件事故受傷当初からの症状経過や治療状況という言葉が書かれていました。

くびの痛みについては初診時にシーネ固定がされたほどですので、事故後すぐに症状が軽くなったというような事情はありません。したがって、受傷当初からの症状経過については判断の誤りがあると思いました。しかし、通院日数についてはこのステージでも非該当の理由と考えられたと思いました。

 

 

 

 

自賠責保険・共済紛争処理機構への不服申立て…後遺障害14級9号認定

 

自賠責保険への異議申立てでも結果が変わりませんでした。この段階で新たな医学的材料はなさそうなので、自賠責保険へこれ以上異議申し立てをしても、結論は変わらない状態になっています。

 

 

ただし、被害者の症状は今でもずっと続いていて、日常や仕事でつらい思いをされています。被害者の意向をお聞きし、自賠責保険・共済紛争処理機構を不服申し立てをすることになりました。

 

■自賠責保険・共済紛争処理機構の運用が変更になりました。

最近の運用変更で、自賠責保険に提出していなかった資料が提出できるようになりました。これまでは、自賠責保険に提出していなかった資料を処理機構で提出することはできませんでした。

ただし、本件ではすでに資料は出し尽くしていたので、このステージで新たに提出する資料はありませんでした。今まで出した資料で正当な判断を求める申し立てをしました。

 

 

 

■自賠責保険・共済紛争処理機構での「調停(紛争処理)結果」

頚部痛につき、後遺障害14級9号(局部に神経症状を残すもの)に該当すると判断されました。

 

 

■自賠責保険・共済紛争処理機構が説明理由として挙げていたこと

以下の理由が挙げられていました。

 

事故翌日に初診を受け、外傷性頚部症候群(=頚椎捻挫と同じ意味です。)と診断され、内服薬と外用薬の処方がされたこと、転院した開業医の諸新月診断書では外傷性頚部症候群と診断され、初診時に頚部痛などがあり、消炎鎮痛剤の投薬と理学療法を開始し、現在継続中とあり、以降も症状固定日まで同様の治療が継続されたほか、消炎鎮痛等処置(器具等による療法)が毎月定期的に世故うされ、その間の経過診断書の症状の経過等欄には「頚部痛」との症状が記載されていること。

 

→これらの経過から、交通事故の受傷当初から症状固定日まで頚部痛の症状が継続し、そのため治療が続けられたものと捉えられる。そうすると、頚部痛については、症状経過からは受傷当初から継続一貫した症状と捉えられ、将来においても回復が見込めない症状が残存したものと医学的に説明できることから14級9号に該当する。

 

ただし、理由に挙げられていない事情も考慮要素となっている可能性がありますので、上記の理由だけをうのみにすることはできないと考えております。

 

 

 

 

自賠責保険・共済紛争処理機構が後遺障害14級9号を認定した後の手続

 

自賠責保険・共済紛争処理機構から結果が返ってきた後、自賠責保険会社から、以下の連絡がありました。

「自賠責保険・共済紛争処理機構が後遺障害14級9号の判断をしました。これから自賠責保険の支払手続に入りますので自賠責保険に対し、異議申立書を提出してください。」

 

 

これを受けて、当法律事務所は、自賠責保険の定型様式「異議申立書」に簡単に理由を記載し、自賠責保険・共済紛争処理機構から送られてきた「調停(紛争処理)結果」をつけて自賠責保険に郵送しました。

 

自賠責保険は、自賠法施行令4条に基づく照会(自賠責保険が損害賠償額の支払いをする際に、あらかじめ自賠責保険の被保険者に対して意見を求める手続のことです。)をしたうえで、被害者に対し75万円の支払をしました。

 

 

 

 

相手方任意保険会社との最終示談交渉

 

後遺障害14級が認定された後は、最終示談交渉に入りました。

 

これまで支払済みの金額を除き、240万円 の支払を受ける合意ができ、示談は成立しました。

後遺障害14級認定により自賠責保険会社から75万円 の支払を受けたことを含め、弁護士加入後、315万円 の支払を受けることができました。

 

 

 

 

ひとこと

 

もし、後遺障害非該当のままで示談を進めていれば、かなり低い金額での解決にならざるを得なかったところでした。

 

自賠責保険・共済紛争処理機構は、本件では、症状固定日までの通院総日数60日を特に少ないとはみなかったということになります。

 

とにかく、被害者も弁護士もあきらめなかったことがこのような結果につながったと思います。