【長母指伸筋腱断裂等による後遺症】弁護士の加入により2554万円の支払いを受ることができた事例

 
Vさん(症状固定時60歳女性 有職者の家事従事者)は、バイクに乗り通勤中、乗用自動車に衝突され、転倒するという交通事故にあい、病院に救急搬送されました。

Vさんは以下のけがを負いました。

右大腿骨近位部骨折
右橈骨遠位端骨折
右尺骨茎状突起骨折
肋骨骨折
肩甲骨骨折
右長母指伸筋腱断裂
内臓損傷

Vさんは救急搬送先の病院に2か月半ほど入院することになりました。

 ● 長母指伸筋腱(ちょうぼししんきんけん)
親指の腱のことです。多くの部位に骨折があったこともあり、事故直後から確定診断がついていたわけではなかったのですが、入院中、Vさんは右手親指がとても痛く、動きが十分ではありませんでした。Vさんは医師に伝え、同じ病院の手の外科医に見てもらったことで、断裂が判明し、腱移植術が行われました。

● 橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)
手首の部分の骨折のことです。事故後、Vさんの右前腕部分はギプスやシーネで固定されました。Vさんのこの部分の骨折はなかなか骨がくっつかず(これを骨癒合遷延といいます。)、骨の移植の手術が行われました。

 

  • 労災保険を利用しての治療、休業損害

 
Vさんがあった交通事故は通勤中のことでしたので、労災保険が適用できる事案でした。Vさんは病院の治療は労災保険を利用することになりました。

また、Vさんは仕事を休まなければならなくなり休業損害が発生しました。この休業損害もまず労災保険に対し請求することにしました(休業補償といいます。)

ただし、Vさんはご主人のために炊事、そうじなどの家事を行う方でもありました(この点は後述いたします。)。

 

  • ●労災保険を利用するメリット

1、労災からの支払金は、相手に対する損害賠償では同一の性質を持った損害費目からしか引くことができません。これは被害者にも過失があった場合に意味があります。
かんたんにいいますと、労災から治療費の支払いがあった場合、被害者にも過失が10%ある場合、治療費の10%分を、休業損害や慰謝料から差し引くべきではないということになります。

(参考)被害者にも過失が10%あるケースで相手方任意保険会社が100%分の治療費を払った場合、うち10%分は、休業損害、慰謝料など他の未払い損額から引かれて計算されることになります。

 2、労災の休業補償を利用すると…(特別支給金)
休業補償は通勤災害の場合には4日目からしか休業をカウントされず、休業補償は労災保険からは給付基礎日額の6割分しか支給されません。一般的にも労災の休業補償は手続してから支給されるまでに時間がかかります。労災保険にはこのような難点がありますが、相手方に6割を超える過失がある場合には、特段の事情がなければ6割を超える部分は相手方に支払ってもらうことになりますし、事故直後の3日間の休業も特段の事情がなければ相手方に支払い義務があります。これに加えて労災保険は特別支給金といい、給付基礎日額の2割分を労災保険が支給してくれる制度があります。この特別支給金はいわゆるお見舞金のような制度で、支給を受けても、相手方との損害賠償の交渉で差し引かれるものではありません。

3、労災にも後遺障害認定制度がある
労災保険にも自賠責保険とほぼ同じの後遺障害等級制度があります。認定された等級に基づいてお金の支払いがあります。ここについても休業補償と同様に特別支給金制度があり、この特別支給金は相手との損害賠償の交渉で差し引かれるものではありません。

 

  • 治療経過、症状経過

Vさんは、大腿骨近位部骨折後の立位や歩行のリハビリ、右親指や右手首のリハビリを継続しました。

その後、労災保険からVさんのもとへ治療費を打ち切る旨の通知がきました。
それととともに休業補償も打ち切る旨の通知がVさんのもとにきました。
ただし、労災からこれらの通知が来た時点では、主治医の先生はまだ症状固定とするには早いという見解でした。そこで、Vさんはもう少し通院を継続することになりました。

しかし、Vさんの各部位の痛みや受傷部位のうちいくつかの関節の可動域制限は残ってしまいました。

 

当法律事務所弁護士が受任

Vさんは、治療中に当法律事務所の無料相談にお越しになり、当法律事務所弁護士は、その後もVさんからご相談をお受けしていました。

症状固定間近の段階で当法律事務所弁護士がご依頼をお受けすることになりました。

 

  • 病院同行

弁護士がご依頼をお受けした直後に、症状固定日の診察になり、後遺障害診断書の作成をお願いするという段階がきました。

Vさんが自覚症状をきちんと主治医の先生に伝えることができるかどうかが気になったのと、受傷して可動域制限が生じているいくつかの関節について、もれなく可動域の測定をしていただけるのかどうか気になったこともあり、当法律事務所弁護士が症状固定日の通院にVさんと同行させていただくことになりました。

手関節の運動には、屈曲運動と伸展運動というメインの運動がありますが、これ以外にも橈屈(とうくつ:手を親指側に曲げる動作です。)、尺屈(しゃっくつ:手を小指側に曲げる動作です。)という運動があります。この橈屈と尺屈の測定がされないケースが少なくありません。

本件でも、弁護士から橈屈と尺屈の測定をしていただくようお願いしました。

それよりも本件で大事だったのは、左右の親指の可動域の測定です。右親指にはかなりの運動制限がありました。しかし、親指の測定をしていただけそうな気配はありませんでしたので、これも弁護士から測定をしていただくようお願いをしました。親指もいくつかの運動がありますので、全ての運動を測定して頂くようお願いしました。

さらに、労災保険についても後遺障害等級の申し立てをする予定でしたので、労災の書式にもご記入いただくようお願いしました。

 
注意!
労災の後遺障害診断書は、自賠責の後遺障害診断書の書式とは別の書式になります。ですので、労災の後遺障害等級も自賠責の後遺障害等級も申し立てをお考えの被害者は、書式を自賠責用と労災用の2種類準備しておく必要があります。そして、後遺障害診断の日に、どちらの書式も持参して主治医の先生に作成をお願いしておくとよいでしょう。
自賠責の後遺障害診断書に記載される内容と労災の後遺障害診断書に記載される内容は全く同一になります。

弁護士は代理し、自賠責保険会社宛後遺障害等級の申し立てをしました(被害者請求)。

 

  • 最初の自賠責の後遺障害等級認定結果…併合11級

 ●結果
併合11級 が認定されました。

以下の各等級が認定され、併合処理として重い等級(12級)の1つ上の等級が認定されますので11級の認定になりました。

・右尺骨茎状突起骨折の部分が偽関節(ぎかんせつ:かんたんには骨が癒合していないということです。)になっており、長管骨に変形を残すものとして後遺障害12級8号
・右股関節の機能障害につき後遺障害12級7号
(あとは痛みが残った後遺障害14級9号がいくつか認定されました。)

 
●最初、右手首と右親指の可動域制限は認定されませんでした。後遺障害診断書の関節の可動域測定結果の記載は以下のとおりです(記載は全て他動値です。)。 

股関節

伸展

0度

10度

屈曲

 110度

120度

内転

20度

20度

外転

40度

60度

内旋

50度

70度

外旋

70度

80度

 

※手関節とは手首の関節のことです。

手関節

 左

屈曲

60度

 80度

伸展

60度

 80度

橈屈

20度

 30度

尺屈

40度

 50度

 

親指

MP屈曲

20度

70度

MP伸展

10度

30度

IP屈曲

40度

70度

IP伸展

10度

20度

 橈側外転

65度

90度

掌側外転

40度

70度

※ MPとは親指の付け根に近い関節のことです。
※ IPとは親指の先に近い関節のことです。

 

●関節機能障害の後遺障害等級について
(もちろん、可動域制限が発生するような器質的な損傷があることが前提ですが)上記の数値からいきますと、以下の後遺障害等級にあたることになります。

・股関節は 後遺障害12級7号
     ※右の外転運動と内転運動の合計値(60度)が、左のそれ(80度)に比べて4分の
      3以下に 制限されているからです。

・手関節は 後遺障害12級6号
     ※右の屈曲運動と伸展運動の合計値(120度)が、左のそれ(160度)に比べて4
      分の3以下に制限されているからです。

・親指は  後遺障害10級7号
     ※MP関節に関し、右の屈曲運動と伸展運動の合計値(30度)が、左のそれ(100
      度)に比べて2分の1以下に制限されているからです。

 
しかし、病院から毎月発行される診断書と一体となっている診療費請求内訳書というものがあり、その労災保険に提出するための診療費請求内訳書の内容が問題になりました。
この診療費請求内訳書には、途中の時点で、右手関節の屈曲と伸展が左手関節に比べて4分の3を超える可動域が得られている記載と、右親指のMP関節が左親指のMP関節に比べて2分の1を超える可動域が得られている記載がありました。
これらの点で、後遺障害診断書に記載された可動域で評価することは難しいと判断され、右手首と右親指の可動域制限は後遺障害に該当しませんでした。

 

  • 労災の後遺障害等級の申し立て

 
その後、まず、Vさんには労災の後遺障害等級の申し立てをしていただきました。労災の後遺障害等級では、労災認定医の先生の面談があります。

 ●結果
併合8級 が認定されました。

労災では、右股関節の可動域制限で後遺障害12級、右手関節の可動域制限で後遺障害12級、右親指の可動域制限で後遺障害10級が認定され、併合8級になりました。

  • 自賠責後遺障害等級異議申し立て…併合8級に変更

 
労災保険では後遺障害8級が認定されたのですが、自賠責では後遺障害11級にとどまったため、Vさんとのご相談で自賠責の後遺障害について異議申し立てを行うことになりました。

 当法律事務所弁護士は、右手首と右親指の可動域が、なぜ治療途中の時点で、可動域が得られている記載になっていたのかをまず調べる必要があると思いました。

そこで、病院のカルテを入手することにしました。

 弁護士がカルテを確認したら、その理由がはっきりしましたし、全て説明がつく内容になっていました。(※具体的な内容については省略させていただきます。)

そして、当法律事務所弁護士は、自賠責保険に異議申し立てをしました。

異議申し立てに使用した新たな医証は、この病院のカルテのみでした。
労災で後遺障害8級が認定された資料についてはご依頼者の了解のもと提出しませんでした。
ただし、病院のカルテの記載を拾ってていねいに主張しました。

 
●結果 
等級が変更され、併合8級 が認定されました。

●異議申し立てで新たに認定された等級
・右手関節の機能障害につき後遺障害12級6号
・右親指MP関節の機能障害につき後遺障害10級7号

●併合処理の仕方
まず、新たに認定された右手首と右親指については認定基準上、同じ側の上肢の機能障害と手指の機能障害がある場合、同一の系列としてあつかうことになり、併合の方法により判断します。
つまり、10級と12級なので、重い方の等級が一つ上がり9級になります。

つぎに、上記の9級と、初回に認定された右尺骨茎状突起骨折後の変形の12級と、右股関節機能障害の後遺障害12級が併合の処理になります。つまり、一番重い等級である9級が一つ上がり8級(併合)になります。

このように、異議申し立てまでしましたが、何とか想定された等級認定までたどりつくことができました。

●自賠責保険からの支払い
後遺障害8級が認定されたことにより、自賠責保険会社から合計 819万円 の支払を受けることができました。

 

示談交渉

最終の示談交渉も当法律事務所弁護士が代理して行いました。

手順はまずこちらから、追加で1835万円の最終請求を相手方任意保険会社に送りました。

結局、示談で解決ができました。
結果、最終で 1735万円 の支払を受けることができました。

後遺障害8級が認定されたことによる自賠責保険からの819万円の支払いとあわせて、弁護士加入後 2554万円 の支払を受けることができました。

(補足)上記以外にも、Vさんは、労災保険8級認定で、支給調整後の賠償金81万円のほか、後遺障害の特別支給金として70万円、そのほかに休業損害やその特別支給金の支払いを受けられました。

 
●入院付添看護費
当方からの請求額は満額での合意ができました。

●通院付添看護費
相当額支払う旨の合意ができました(こちらからは、ある資料を提出しまいた。)。

●休業損害
すでに労災保険から仕事分のものは支給を受けられていましたが、Vさんはご主人のために家事を行う方でもありました。Vさんのケガは受傷であり、交通事故後ほとんど家事ができない状況でした。

この家事の休業損害を当法律事務所弁護士が計算しました。すると、仕事の休業損害分よりも家事の休業損害の方が金額が高くなったので、追加で支払を受けるべき金額があると考え、これを請求しましたところ、追加請求分は212万円で話を進めることができました。

●後遺障害逸失利益
こちらからは、家事労働能力が平均余命の2分の1の年数である14年間、45%失われる旨の請求をしました。

しかし、相手方保険会社からはいったん7年間の労働能力しか失われない旨の主張がありました。

当法律事務所弁護士からは、裁判例の存在や、本件では、Vさんよりもご主人の方が年齢が若いことなどを主張し、こちらからの主張どおり賃金センサスにもとづいた年収377万円の45%分が14年間失われることを前提とした金額で話を進めることができました。

 
ひとこと

Vさんは多数の部位に大きなケガを負い、日常生活もままならない状態となり、示談終了時でも多くの家事ができていない状態です。
このような場合、残った症状に見合った後遺障害が認定されないと、Vさんだけでなくご主人の将来の生活も大変厳しいものになるおそれがあるのです。

弁護士が後遺障害等級の認定の場面でフル回転するというのは、あまり想像がつかないかと思います。

しかし、上にも述べたとおり、当法律事務所弁護士は、病院まで同行し、異議申し立てではカルテのすみまで目を通し、Vさんに症状に見合った等級が認定されるよう頑張って踏み込んで弁護活動をしました。途中でハードルはありましたが、適正な等級が認定されました。

当法律事務所が、このような形で、後遺障害等級案件に日常的にたずさわっていることをおわかりいただければ幸いです。

※以上の金額は千円以下省略しております。