交通事故 脳挫傷 後遺障害等級12級13号が認定されたケース【弁護士が解説】

 
 被害者は自転車、相手方は乗用車で、交差点の直進同士で衝突した事故でした。被害者は自転車とともに転倒し、頭部や腰などを強打し、病院に救急搬送されました。

 被害者は左側頭骨骨折、左腸骨骨折、外傷性くも膜下出血、気脳症のほか、脾損傷(ひ臓の損傷です)と診断されました。

  ※ 腸骨(ちょうこつ)とは、骨盤の骨の一部です。

 後の診断書で判明したことですが、被害者には軽度意識障害(GCSで14点)がありました。

 手術は脾臓の損傷のみで、骨折部分は保存療法(手術をしない治療法のことを保存療法といいます。)とされました。

 上記の傷病名からすると、被害者は生命に危険が及ぶ外傷を負ったということがいえます。実際にも被害者の症状は非常に重かったとのことですが、約2週間で退院され、その後もかなり回復されました。

 被害者には特に髄液漏の所見もなく、めまいや平衡機能障害等の症状もなく、眼の症状もないようでした。

 その後は特にリハビリらしいリハビリはなく、定期的に通院する状態がつづき、事故から約1年経過して相手方任意保険会社から治療の終了時期に関する話があったことがきっかけで、当法律事務所の無料相談にお越しになりました。

 

当法律事務所の無料相談

 
 無料相談でお話を聞きますと、脾臓(ひぞう)の損傷については幸い脾臓を摘出せずに治療することができたようです。

 ※ 脾臓(ひぞう)に関する後遺障害  
  脾臓を失ったかどうかが問題になります。脾臓を失った場合、後遺障害13級11号に該当す 
 ることになります。

(頭部外傷と関連したことになりますが)交通事故前と比べて物忘れや怒りっぽくなった点がないかを確認しましたが、特にないということでした。

 ただ、お話をお聞きしますと、被害者は、ときどき頭部が痛む、腸骨(ちょうこつ)の骨折部分が痛む、聴力も含め耳がおかしいといった症状があるようでした。

 

  • 弁護士受任

 当法律事務所弁護士が被害者の方からご依頼をお受けすることになりました。

・耳鼻咽喉科関係

 被害者はこの交通事故で左側頭骨骨折を受傷しました。左側頭骨付近は左側頭葉があります。この左側頭葉は聴覚とも関係してきますので、この部分を受傷した場合、聴覚に影響する可能性があります。

 当法律事務所弁護士は、被害者の耳の自覚症状をお聞きし、左側頭骨骨折による受傷が聴覚に影響している可能性を気にしましたが、聴力検査が1回しか行われていませんでしたので、引き続き病院の耳鼻咽喉科に通院して聴力検査等を以降複数回受けていただくべき旨アドバイスをしました。

・本ケースのポイント(脳神経外科関係)

 被害者の頭部の痛みについては、くも膜下出血や側頭骨骨折の傷病名があることから、脳神経外科での診察があったのかどうかがまず気になったのですが、診断書などの医療資料を見ていると、どうも救急搬送後、脳神経外科で受診された形跡がありませんでした(整形外科での診察はあったようでした。)。

 しかも、退院後の通院日数も全体的に少ない状態でした。

 くも膜下出血や側頭骨骨折を受傷しながら、交通事故から1年以上経過してもなお脳神経外科での診察すらない状態がありました。

 本ケースでは脳神経外科による診察が必要になりますので弁護士はどうしたらいいかと悩みました。

 結局、頭部の痛みに関して後遺障害診断をお願いすることで、その病院の脳神経外科での受診に何とかたどりつくことができました(弁護士の同行のご了解が得られないケースでしたので、被害者の方もかなり苦労されました。)。

 幸い、頭部のCTとMRI画像は被害者入院中に撮影されていたようでしたので、これについてはひと安心しました。

 脳神経外科で作成された後遺障害診断書によりますと、外傷性くも膜下出血や側頭骨骨折などの所見はありましたが、それに加えて事故から1週間後に撮影されたMRIでは右側頭葉の脳挫傷痕が認められる旨の所見がありました。
 後に入手したMRI画像を当法律事務所弁護士が確認しますと、弁護士の目から見てもはっきりと右側頭葉に異常がありました。

 ただし、明らかな神経脱落症状はないという所見でした。

 また、交通事故前と比べて物忘れや怒りっぽくなった点について、被害者は一人ぐらしであり、かつ、交通事故当時勤務していた会社をこの事故のためにわずか1ヶ月で退職することになったこともあり(被害者は事故後3ヶ月経過して再就職されましたが)、事故前後の被害者の様子をよくご存じである方がほとんどいないという難しい点もありました。結局、当法律事務所弁護士受任後、被害者と親しいご友人の方に日常生活状況報告書を作成いただくことになりました。
 それでもご友人の方が把握されているのは、被害者が受傷部位の痛みを訴えることや調子が悪いということぐらいでした。

 

  • 後遺障害

 結局、本件では、3通の後遺障害診断書(耳鼻咽喉科、脳神経外科、整形外科)が作成されました。

 整形外科については腸骨の痛みと画像上の所見が記載されていました。

 後遺障害等級認定結果ですが、12級13号が認定されました。

 耳鼻咽喉科関係については、聴力検査結果はそれほど悪いものではありませんでしたので、非該当でした。耳の違和感についても後遺障害等級には該当しませんでした。

 整形外科関係について、左腸骨骨折部分は画像を見ると右と比べて少し形が違うところがあり、骨折部位を撮影した写真を添付しましたが、変形障害も神経症状も認定されませんでした。

 脳神経外科関係については、側頭部痛の症状に関して、「神経系統の障害に関する医学的所見」という資料上正常であり、「日常生活状況報告」上ほぼ問題がなく、後遺障害診断書上明らかな神経脱落症状がなかった旨の指摘がありました。しかし、後遺障害診断書に 脳挫傷 という傷病名が記載されており、CTで左側頭骨骨折、外傷性くも膜下出血、気脳症が、MRIでも脳挫傷が認められ、脳挫傷痕が残存するものと認められ、後遺障害12級13号に該当すると判断されました。

 後遺障害等級認定は、自賠責保険宛に申し立てており、12級の認定で自賠責保険から224万の支払いがありました。

 

  • 示談交渉

 この等級認定結果が出た後、被害者のご意向もお聞きし、最終の示談交渉に入ることになりました。

 休業損害は、弁護士受任前にすでに支払いを受けておられました。

 入通院慰謝料(傷害慰謝料)について、本ケースでは入院13日、通院実日数は18日でしたが、153万円の請求をし、この金額での合意ができました。

 ※ この入通院の状況では、通常は、150万円の慰謝料算定は難しいと思われるケースです 
 (ギプスで固定した期間もありませんでした。)。しかし、当法律事務所は、被害者の受傷の程
   度、退院後の被害者の状態、勤務先の休業状況等を考え、細かい主張をしていきました。

 後遺障害逸失利益については、446万円で合意ができ、後遺障害慰謝料は280万円で合意ができました。

 本件では被害者には一定程度の過失が見込まれるケースでした。
 相手方は当方の過失40%を主張していましたが、結果当方の過失は30%を前提とする計算で合意ができました。

  •     ※ 本ケースは交通事故証明書の甲欄に被害者の記載がありました。 
        交通事故証明書には甲欄、乙欄という当事者を記載する欄がありますが、甲欄に書かれている当
       事者の過失割合が多いものと考えそうになります。もちろん、甲欄には過失割合が多い当事者が記
       載されていることが多いのですが、交通事故証明書は過失の有無や過失の程度の大きさを証明する
        ものではありません。
       
    甲欄に記載されているからとって交通事故証明書はその者の過失がより大きいことを証明するもの
       でもありません。

     

     結局、示談交渉では389万円の支払いを受ける合意ができました。自賠責から支払いを受けた224万円とあわせて弁護士受任後613万円の支払いを受けることができました。

 

弁護士からひとこと

 本ケースは、ケガの状況、傷病名などから検討し、脳神経外科での診察が大きなポイントでした。弁護士が入らなければ脳神経外科での診察まで至らなかった可能性が高いといえたケースであり、そうなるとおそらく後遺障害等級非該当になったと思われる事案でした。

 本ケースはかなり難しい点が多く、事件解決まで険しい道のりばかりでした。
 この弁護活動が今後の被害者にとって一助になれば幸いです。

(上記金額は千円以下省略しております)