交通事故と脳挫傷・高次脳機能障害など
脳挫傷とは
かんたんにいいますと、外傷により頭部を激しく打ち、ある限られた一部の(これを局所性といいます。)脳組織が砕け、損傷することをいいます。
交通事故でも頭部外傷を負い、脳挫傷を受傷することがあります。
脳の損傷は、なぜ深刻な問題になってくるのか
たとえば、交通事故で頭部を打ったりして救急搬送されますと、まず、レントゲンやCTなどの画像検査で頭部の受傷の確認が最優先されますが、これはなぜでしょうか。
人の死因の中で不慮の事故というのは統計上も上位に入っており、不慮の事故の約半数が頭部外傷によるものであるといわれています。つまり、頭部外傷、脳の損傷がまさに人の生命の危険にかかわってくるからなのです。
生命の危険から脱したとしても、頭部外傷で脳が損傷した場合、からだ、神経や精神に重度の後遺症(後遺障害)が残るおそれがあります。頭部外傷で後遺症が残る人の数は頭部外傷で死亡した方の数をはるかに上回ると言われています。
ですので、頭部外傷、脳の損傷の確認、治療は最優先にされるべき問題であるといえます。後遺症の残存に関しても交通事故が原因であれば、損害賠償の面からもきちんと対策を立てておく必要がありますが、これは受傷後早期の段階から考えていく必要があるといえます。
後で述べますが、受傷により意識障害が発生する可能性もありますが、この意識障害が、どの程度、どのくらいの時間継続していたかが治療や後遺症(後遺障害)との関係で非常に重要になってきます。
当法律事務所が取り扱ったケースを例で挙げますと、
・バイク乗車中に四輪車に衝突された
・自転車乗車中に四輪車に衝突された
・歩行中に四輪車にはねられた
といった事故により、脳挫傷を受傷したというものがありました。
脳挫傷はどの部位に発生することが多いのか
脳挫傷は、局所性脳損傷(脳のある限られた一部の損傷とご理解いただければと思います。)ともいわれ、中でも前頭葉と側頭葉の受傷が多いと言われています。
脳挫傷について後遺症(後遺障害)との関係で気をつけるべき点
1、意識障害の程度と継続時間
交通事故により、脳挫傷など頭部外傷を受傷し、意識障害があるケースは、後遺症(後遺障害)が残存するおそれがあると考えていただいた方がよいと思います。
意識障害が、どの程度、どのくらいの時間継続したのかが重要になってきます。
(1)意識障害の程度
意識障害の程度は、JCS(japan coma scale)や、GCS(glasgowcoma scale)といった評価方法により確認されることになります。
JCS…かんたんにいいますと、意識障害の程度を最大3けたの数字で評価するもので、刺激がなくても覚醒している状態を1けた、刺激がなくなると眠り込む状態を2けた、刺激に対して覚醒しない状態を3けたで表します。くわしくは以下のとおりです。
300…痛み刺激に反応しない
200…痛み刺激に反応して、手足を動かしたり顔をしかめたりする
100…痛み刺激に対して払いのける運動をする
30…呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する
20…簡単な命令に応じる
10…合目的な運動をするし、言葉も出るが、間違いが多い
3…自分の名前生年月日がいえない
2…見当識障害がある ※見当識(けんとうしき)障害とは、今自分がいる場所、今日の日付、今の時刻などが認識できなくなる障害のことをいいます。
1…清明とはいえない
0…清明
GCS…かんたんにいいますと、意識障害の程度を点数で評価するもので、以下E、M、Vの合計点で判定し、15点が満点で意識清明という評価になり、最も低い3点又は4点が昏睡状態と評価されるものです。
分類E(開眼)4…自発的 3…言葉による 2…痛み刺激による 1…なし
分類M(運動反応)6…命令に従う 5…はらいのける 4…逃避的屈曲 3…異常な屈曲 2…伸展する 1…なし
分類V(言語性反応)5…見当識あり 4…錯乱状態 3…不適当 2…理解できない 1…なし
【 注意!!! 】
JCSで3けたから2けた、GCSで12点以下が6時間以上続くケースや、JCSで1桁、GCSで13点から14点が1週間以上続くケースは、後に述べる高次脳機能障害という後遺症(後遺障害)に注意していただく必要があるといえます。もちろん、患者(交通事故被害者)さんの、事故前にできていた動作ができなくなる、物忘れがある、怒りっぽくなるといった変化をご家族の方がよく見ておくことも大事です。
脳の損傷の程度が重く、意識障害が長く続いているケースでは、患者(交通事故被害者)がICU(集中治療室)で治療されるケースもあります。ICUで治療されたという事実は、後遺症(後遺障害)と密接に関連してくると当法律事務所では考えています。
(2)事故後の意識障害の程度・継続時間を記載してもらう書式
医師の先生に、「頭部外傷後の意識障害についての所見」という書式に、外傷直後の意識障害どの程度、どのくらいの時間継続していたのかを記載していただく必要があります。高次脳機能障害等重度後遺症(後遺障害)の等級認定の申し立てでは、提出が必要となる書類です。
2、脳挫傷はすぐに画像検査を…
交通事故で脳を損傷したケースでは、事故後の治療先の病院で医師の先生に脳挫傷という確定診断をされていることが大事です。
頭部外傷ケースでは、交通事故受傷直後に頭部CT検査を実施していただくことが必要です。脳挫傷は受傷直後のCT画像で診断されることになります。
CTはレントゲンと同様、骨の様子を見るのにすぐれていますので、頭部の骨折の有無を確認するという意味でも重要ですが、CTはそれ以外に新鮮な出血を診るのにすぐれているといわれています。頭部の出血(点状出血も含めて)や血腫の有無を確認するという点でもCTは重要になります。
脳挫傷は、受傷部位におこる直撃損傷だけでなく、受傷と対極におこる場合も多くあります(対側損傷といいます)ので、この点にも注意する必要があります。
受傷から1日経過すると、MRI画像が細かい異常を診るのに適しているといわれます。ですので、MRI検査も事故後間もない段階で実施していただき、頭部の異常の有無をきちんと確認していただくことが重要です。
3、受傷後3ヶ月以降のMRI検査
脳挫傷受傷後3ヶ月以降は慢性期といわれますが、少なくとも受傷後3ヶ月経過した後もMRI検査を実施していただく必要があります。
MRI検査により損傷部位の脳萎縮、脳室拡大の有無を確認する必要があるからです。脳萎縮、脳室拡大は、高次脳機能障害と関連してくることからこれらを確認する必要があります。
脳挫傷は、びまん性軸索損傷と同時に生じることがあります。このびまん性軸索損傷も画像診断が必要です。
4、交通事故被害者の日常生活状況の把握(脳挫傷後の症状)
脳挫傷を受傷すると、被害者にいろいろな症状が発症する可能性があります。
まずは、頭部を受傷したため、頭痛が続くということが考えられます。頭痛については被害者ご本人がきちんと伝えられるケースもあると思いますが、念のため、ご家族の方からも被害者に頭痛などの痛みやしびれの症状があるかどうか確認していただき、できればメモにつけていただくことが望ましいです。頭痛以外の症状についてもご家族がきちんと確認していただければと思います。
これ以外でも、受傷前の被害者の日常生活状況と様子がちがう場合があり得ます。しかし、この点、被害者ご本人が気づかず、ご家族の方も意識されないまま時間が過ぎるというおそれが十分に考えられます。
被害者が自分の様子を自覚できないことは十分に考えられるので、ご家族が被害者の受傷前後の違いをきちんと観察して、メモにつけていただくことが非常に大切になります。
つまり、脳挫傷受傷後、高次脳機能障害の症状が発症する可能性がありますが、この症状は、被害者自身が気づかないことも多く、被害者のご家族が確認していく必要があるということです。
高次脳機能障害と関連した注意すべき症状を以下のとおり一例をあげておきます。
怒りっぽくなる
気持ちが沈みやすくなる
指示を受けないで行動ができなくなる
行動をする計画ができない
作業にミスが多くなったり、集中力が低下した
作業中疲れやすくなる
1つのことをするとほかのことができなくなった
記憶障害
同じ事を何度もたずねたり、同じ事を何度も言う
もののかたちがわからない
片側だけ見落とす
道具がうまく使えない
手足の動作が遅い
近所の道をまよってしまう
読む、書く、聞く、話す、に障害が出る
その他、高次脳機能障害との関係で、リハビリや神経心理検査などの点も大事になってきます。
脳挫傷と交通事故後遺症(後遺障害)
以下、代表的なものをあげます。
●遷延性意識障害
●高次脳機能障害
高次脳機能障害の場合、1級、2級、3級、5級、7級、9級といった後遺症(後遺障害)等級認定の問題が出てきます。
高次脳機能障害について もクリックしてごらんいただければと思います。
高次脳機能障害に加えて、眼の障害(複視など)や嗅覚障害などが問題となるケースがあります。眼や嗅覚にも影響が出た場合には、診療科も、脳神経外科だけでなく、眼科や耳鼻咽喉科などにも通院する必要が出てきます。
●外傷性てんかん
脳挫傷を受傷した場合には、いろいろな後遺症(後遺障害)が残るかもしれないことを念頭におく必要が出てきます。
交通事故・脳挫傷は重度の後遺症(後遺障害)の問題が出てくるうえ、事故後早期に気をつけなければならないことが少なくありません。交通事故重度後遺症(後遺障害)のことをよく知っている弁護士による相談を受けることが望ましいといえます。
交通事故で脳挫傷と診断された方は、ぜひ当法律事務所の無料相談をご利用いただければと思います。
「弁護士に何を聞いていいかわからない」と思っておられる方もおられるかもしれませんが、そのような方でも(被害者のご家族の方からでも結構です)、まずはお電話をいただければと思います。無料相談では当法律事務所の弁護士が必要な事項をお聞きしていきますのでご安心ください。