高齢者の頭部外傷障害・高次脳機能障害の注意点 後遺障害5級認定ケース

(令和5年1月18日原稿作成)

高齢者の頭部外傷障害

 

交通事故で頭部をケガすると、身体機能に障害が生じたり、物忘れ、怒りっぽくなる、注意力、集中力低下などの症状(高次脳機能障害)が発症して残ることがあります。

 

高齢者の方が交通事故で頭部をケガし、身体機能障害、高次脳機能障害となってしまうケースもありますが、高齢者の場合には、注意するべき点が増えます。

 

弁護士金田が受任した事案ですが、交通事故で頭部をケガし、身体性機能障害と高次脳機能障害が生じ、残り、後遺障害5級2号が認定されたケースをもとにご説明いたします。

 

高齢者の頭部外傷障害

 

被害者(80代男性収入は年金のみです)は自転車乗車していた際、四輪車との衝突事故にあい、病院に救急搬送されました。

 

多数箇所に打撲はありましたが、一番大きかったのは、急性硬膜下血腫という頭部のケガでした。

頭部のケガは手術の必要はありませんでしたが、しばらく入院をしなければならなくなりました。

 

被害者のご家族は、今後どうしたらいいか全くわからず困っておられましたが、事故から約10日後、ご紹介により、当法律事務所の無料相談にお越しになり、その約1ヶ月後に弁護士金田がご依頼をお受けすることになりました。

 

救急搬送先は、急性期(=ここではケガをして間もなくの時期という意味でご理解ください。)の治療のみを行う病院のため、被害者は他の病院に転院して入院をすることになりましたが、その転院先の病院でご依頼をお受けするお約束をすることになりました。

 

被害者は、後で述べる症状が続いたこともあり、事故から約4ヶ月入院することななりました。

 

脳挫傷など頭部をケガした場合に残る後遺障害について

 

 大きく分けて、身体性の機能障害精神の機能障害 が残るおそれがあります。

※本件では問題になりませんでしたが、「てんかん」が発症するケースもあります。

 

●身体性の機能障害

身体性の機能障害としては、上肢や下肢、すなわち手足の麻痺(まひ)が挙げられます。

本件の被害者は、交通事故後、一方の下肢の筋力低下が生じ、歩行やバランスに障害が発生し、身の回りの動作を一人ですることに支障が生じました。

 

これに加え、被害者には尿閉(かんたんにいいますと、尿が排出できなくなる状態のことです)の状態になりました。

※尿閉について、後遺障害としての身体性機能障害に含めるかどうかに異論があるのかもしれませんが、一応ここで述べておきます。

 

●精神の機能障害

精神の機能障害とは、高次脳機能障害のことです。

 

事故後、本件の被害者には、物忘れ、易怒性(怒りっぽくなること)、集中力低下、疲れやすくなる といった症状が発生しましたが、これらも高次脳機能障害の典型的な症状になります。

 

高次脳機能障害で注意すること

特に、以下の点に注意が必要となります。

 

1 交通事故にあった後、意識障害がどの程度、どのくらいの期間が経過したかをきちんと把握しておくこと

 

弁護士金田が受任後、被害者から同意書をいただき、搬送先の病院に文書で問い合わせをした資料(「頭部外傷後の意識障害についての所見」という資料です。)によりますと、本件被害者は、初診時、GCS13点の意識障害があったということです。

GCS(グラスゴーコーマスケール)とは意識障害の評価方法のことで、15点満点の15点は意識がはっきりしているという評価になります。

当時の被害者は、動作をすることを命じてもそれができず、会話が成り立たない状態だったことからGCSが13点の評価となったようです。 このような状態でも、「程度はともかく意識障害がある」という評価になります。

 

ところが、問い合わせ文書によると被害者は事故から1日目に意識が清明になったという記載になっていました。

この点に関して、弁護士金田は、意識障害があった期間が本当に1日のみであったのかどうかに疑問を抱き、被害者・ご家族のご了解を得て、搬送先の病院のカルテの取り寄せの申請を行い、取り寄せたカルテを確認しました。

すると、交通事故から1週間以上経ってもJCSが「Ⅰ-2」という記載があるとともに、今日の日付を質問された被害者が誤答をしている記載がありました。

JCS(ジャパンコーマスケール)も意識障害の評価方法のことで、Ⅰ-2とは見当識障害があるという評価になります。

見当識(けんとうしき)障害とは、今日の日付、今いる場所、なぜここにいるのか、まわりにいる人が誰かということなどがわからない状態のことをいいます。 ということは、上記問い合わせ文書には不正確な内容になっていることになります。

弁護士金田は後遺障害等級の申請の際、「頭部外傷後の意識障害についての所見」とともにカルテも自賠責保険会社に提出しました。

 

 

2 画像検査をきちんとしていただくこと(画像所見も重要です)

 

ケガをした直後の頭部CT検査の実施はもちろん、その後の頭部MRI検査の実施も大事になってきます。

本件では、これらの画像検査はきちんと実施されていました。 所見については後ほど述べます。

 

 

3 被害者の日常生活状況について細かくきちんとまとめること(日常生活状況報告)

 

高次脳機能障害では、物忘れ、怒りっぽくなる(易怒性)、集中力の低下といった状態を、被害者自身が気付くことが困難になります(「病識の欠如」といいます。)。

 

被害者ご自身が気付きにくいのであれば、ご家族が交通事故前の被害者の状態と比較して変化が生じているかどうかをきちんと確認していくことが大切になってきます。

 

日常生活の実態をきちんとまとめることは、高次脳機能障害の後遺障害問題ではとても重要であり、日常生活状況報告は必要提出資料になります。

 

本件の被害者についても、弁護士金田がご家族から被害者の日常生活状のヒアリングをしたうえで作成していただき、自賠責保険に提出しました。

 

 

4 その他

上記の、頭部外傷後の意識障害についての所見という書類や後遺障害診断書以外にも、もう一つ主治医にご作成いただく書式があります。これらの資料を自賠責保険に提出しました。

 

 

高齢者の頭部外傷障害、高次脳機能障害に関して注意するべきこと

 

 高齢者の場合、持病(既往症)をお持ちのケースがあり、交通事故でその症状が発生したのかどうかに疑いをかけられることがあります(交通事故と症状との因果関係)。

また、高齢者の場合、認知症との進行の関係で、高次脳機能障害として評価するべきかどうかに疑いがかけられることがあります。

これらについて、十分に調査したうえで、後遺障害問題にのぞむ必要があります。

本件被害者についても以下の事情がありました。

 

 

1 尿閉に関連して、交通事故前から前立腺肥大の指摘がありました

 

ただし、排尿障害は交通事故前にはなかった症状であり、この点は、弁護士金田はご家族と同行し、交通事故前から受診されている泌尿器科医師の先生と面談の機会をいただき確認までしました。

さらに、被害者には交通事故前だけでなく交通事故後にもPSA検査(前立腺の検査のことです)が実施されており、これら各検査結果からは事故後に検査数値の悪化はみられませんでした。

弁護士金田はこれら各検査結果も自賠責保険に提出し、被害者の尿閉は、前立腺云々とは関係はなく、交通事故が原因である旨の主張をしていきました。

 

 

2 被害者のカルテ上、被害者には認知症があるのではないかというような記載がありました

 

これについて、高次脳機能障害との関係で自賠責保険が疑いをもつ可能性あるのではないかと弁護士金田は考えました。

 

被害者には意識障害が生じている期間がしばらくあったことを証拠によって証明するためには、どうしてもカルテを自賠責保険会社に提出する必要があったのですが、後遺障害等級の認定にはマイナスに働きかねない記載がありました。こういったケースはあります。

この点を明らかにするために、弁護士金田は、被害者の治療中の段階で、ご家族と同行し、被害者が交通事故前にかかりつけで行かれていた内科医の先生や交通事故前に受診歴があった脳神経内科医の先生と面談の機会をいただきました。

この面談を通じて、被害者には交通事故前には認知症の症状はなかったことが確認できました。

 

この点も文書にまとめて自賠責保険に提出しました。

それでも、自賠責保険会社は、後遺障害等級の審査段階になってカルテに介護認定の要支援の認定を受けられていた記載指摘し、こちらに対し、要支援認定申請のときに医師が作成した意見書の提出を求めてきました。これについてはご家族にお取り寄せいただき、お預かりして提出しました。

 

後遺障害等級認定結果…後遺障害5級2号の認定

 

頭部外傷(急性硬膜下血腫)後の障害(高次脳機能障害、身体性の機能障害)をあわせて評価され、神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないものとして後遺障害5級2号に該当すると判断されました。

 

 

認定書には以下の趣旨の記載がありました。

・頭部の画像上、脳室周囲の白質変化や脳室拡大が認められるものの硬膜下血腫が認められ、長期入院治療や年齢も勘案すれば被害者の上で述べた症状は交通事故の外傷によって生じたものとらえられる

・身の回りの動作をすることに支障が生じていること、易怒性・意思疎通がうまくいかない、尿閉の症状、足の機能障害などが認められ、HDS-R(長谷川式簡易知能評価スケールという検査のことです)が満点ではなかったことなどを総合評価すれば、上記の後遺障害等級に該当する。

・介護認定の要支援認定について、既存障害(交通事故前からある障害であるという意味です。)がうかがわれるが、調査の結果、被害者には交通事故前に明らかな認知症の症状は認められず、既存障害としての評価は行わない

 

 

ひとこと

 

被害者側にも一定の過失があったこと、被害者は年金収入のみで稼働所得がなかったため、休業損害や後遺障害逸失利益という損害が発生しないため、相手方任意保険会社との最終示談交渉では、それほど大きな金額の支払を受けることにはなりませんでしたが、無事解決することができました。

 

ただし、最終示談前に、後遺障害5級が認定されたことで、自賠責保険会社から1574万円の支払を受けることができました。

 

本件で一番の目標は、最終示談のやりとりよりも、被害者の症状に見合った後遺障害等級が認定されるかどうかでしたので、この目標自体は達成できたといえるケースです。

ただし、今までに述べたとおり、後遺障害5級が認定されるまでには、弁護士も、被害者のご家族も、息が詰まるような苦しい思いを繰り返し、たくさんのやるべきことをしなければならなかったケースでもありました(もちろん、一番苦しい思いをされたのは被害者ご自身ですが。)。

 

弁護士が、漫然と後遺障害申請業務をしていたら、とても後遺障害5級など認定されるケースではないというのが率直な感想です。

 

弁護士金田は、現在でも、頭部を受傷された高次脳機能障害が残っているであろう案件を、何件もご依頼をいただいております。

同じような交通事故受傷をされた被害者のご家族の方は当事務所にご相談ください。