自保ジャーナル掲載 両肩骨折 自賠責では後遺障害14級の認定も、裁判の判決で両肩とも関節可動域制限併合11級が認定されたケース
(令和5年8月15日原稿作成)
裁判で正当な後遺障害等級を求めていくことはできるのか?
●自賠責に後遺障害等級認定の異議申し立てをしても結果が変わらない場合
裁判(訴訟)で正当な等級を求め、その主張する等級に基づいて計算した金額を請求するという方法があります。
まさにこれは最終手段です。
ただし、後遺障害等級に関し、自賠責が下した判断を裁判で変更されることはかなり厳しいものと覚悟しておかなければなりません。
自賠責の判断が裁判で変更される見込みがどの程度ありそうかを十分に検討しなければならないと考えております。
以下のケースは、自賠責保険では、初回の後遺障害等級認定申請に加え、異議申し立てを2度しましたが、結局、頚椎捻挫後(むちうち)のくびの痛みで後遺障害14級9号、右上腕骨大結節骨折後の右肩~右上腕部の痛みで14級9号しか認定されませんでした。
※自賠責法のルールとして、14級が2部位認定されても、トータルの等級は14級(併合14級といいます。)にしかなりません。
そこで、裁判を申し立て、結果、判決で、左肩関節機能障害(可動域制限)で後遺障害12級6号、右肩関節機能障害で後遺障害12級6号が認定され、併合11級が認定されました。
※自賠責法上のルールとして、13級以上の等級が2つ以上認定された場合、一番高く認定された等級を一つくり上げることになります。ですので、本件は12級が一つくり上がって11級が認定されたということになります。
このケースは自動車保険ジャーナルという雑誌にも掲載されました(2124号87ページ~)が、ここでも紹介いたします。
体に大きな衝撃を受けた事故でした
被害者(事故時30代男性)はバイクに乗り、滋賀県内の十字路交差点を青信号で直進して通過しようとしたら、対向車線から右折してきた車に衝突され、飛ばされて転倒しました。
いわゆる、「右直事故」です。
被害者は地面に体を打ち付けて負傷し、A病院に救急搬送されました。
最初の通院経過 ~病院で骨折の見落としがありました~
救急搬送先のA病院では全身のCTが撮影されましたが、特に骨折などの異常がないということで、入院もなく、その日に帰されることになりました。
しかし、被害者は、両肩をはじめ、多部位に痛みがあるのにおかしいと思い、その日のうちに別のB病院に通院することにあり、2日入院して検査を受けることになりました。
B病院での検査の結果、肋骨の骨折、左鎖骨遠位端骨折 が判明しました。
※遠位(えんい)とは、体幹から遠い方にあるという意味です。鎖骨遠位端とは、鎖骨のうち体幹から遠い方の端っこ、すなわち肩関節付近の骨折を意味します。
肋骨の骨折も鎖骨の骨折も、手術は選択されず、三角巾やバンドで固定するという保存療法が行われることになりました。
被害者は右肩の痛みや運動制限も、B病院の診察ごとに訴えていましたが、右肩打撲としか診断されませんでした。
また、被害者はB病院にて、両肩の痛みやくびの痛みなどに関してリハビリテーション(理学療法)をどうすればいいか、何度も尋ねましたが、B病院ではリハビリテーションをすることに消極的で、事故から約2ヶ月後には、B病院で診るのはそろそろ終了だと被害者に言いました。
被害者としては、両肩の痛みをはじめとした症状がまだ良くなっていないのに、病院での治療は終了だと言われたことに疑問を持ち、リハビリテーションを実施してもらえる開業医の整形外科への転院を相談し、やっと紹介状が作成されることになりました。
当法律事務所の無料相談、弁護士受任
B病院で診てもらうことが終了した被害者は、それまでのこの病院での診察に疑問を持ちつつ、今後どうしたらいいかわからず、当法律事務所の無料相談をご利用になりました。
弁護士金田は事故状況、入通院経過から事情をお聞きし、とにかく現在の通院状況を変えていかなければならないと考え、とにかく新たに通院されることになる開業医の整形外科で頑張って治療を続けていくこと、症状が残った場合には後遺障害等級の申請をしていき、損害賠償問題を解決していくことをご相談し、ご依頼をお受けすることになりました。
症状固定日までの通院状況
被害者はC整形外科に通院されることになり、初診で痛みや肩の運動制限などを全て医師の先生に伝え、レントゲン検査を行ってもらいました。
すると、右肩が骨折していた形跡があり、化骨形成されているという診断が下りました(確定診断名は、「右上腕骨大結節骨折」です。)。
※上腕骨大結節(じょうわんこつだいけっせつ)という部位は、上腕骨のうちの肩関節の構成部分にあたります。
被害者には、この初診時までに、本件交通事故以外に右肩を打撃するような出来事は全くありませんでしたし、この右肩付近の骨折部分の化骨形成の程度から逆算すると、この骨折は事故により受傷したものであることが明らかでした。
これまでの病院では右上腕骨大結節骨折の見落としがあったことになります。
いずれもしても、被害者は、両肩の痛み、運動制限などを1日も早く治さなければ仕事ができないので、毎日のようにC整形外科に通院し、リハビリテーションを実施してもらいました。
しかし、くびの痛み、両肩の痛み、両肩関節の可動域制限は改善せず、事故から約6ヶ月半後に症状固定となり、後遺障害診断が行われました。
後遺障害診断書の記載
自覚症状欄には、くびの痛み、両肩の痛みなどが記載され、両肩の可動域測定の欄には実際に測定された数値が記載されていました。
両肩を受傷して関節可動域制限が生じた場合、可動域制限の後遺障害(関節機能障害)はどう判断するのか
肩に限らず、ひじ、手首、股関節、ひざ、足首などの関節の両側を受傷して、両側関節に可動域制限を生じた場合はどのように判断していくことになるのでしょうか。
関節の可動域制限は、健側(受傷していない側)と比べ、患側(受傷した側)がどのていど数値が制限されているかを見ていくことになりますが、両側を受傷した場合、健側(けんそく)というものがありません。
この場合、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会により定められた参考可動域角度というものがありますので、この数値と比較して判断していくことになります。
※両側の関節可動域制限が問題になるケースで注意すべきことはまだまたあります。このようなケースは、特に、交通事故後遺障害問題をたくさん取り扱っている弁護士のサポートが必要といえます。
本件の後遺障害診断書には、左肩は、この参考可動域角度と比較して4分の3以下に制限されている数字が、右肩は、この参考可動域角度と比較して2分の1以下に制限されている数字が記載されていました。
数字上だけを見ますと、左肩関節機能障害で後遺障害12級6号、右肩関節機能障害で後遺障害10級10号に該当するということにはなります。
後遺障害等級認定結果…併合14級にとどまりました
●初回申請
弁護士金田は、右肩骨折が当初見落とされていたことから、自賠責保険は右肩の骨折自体を疑ってかかるだろうと思いました。そこで、被害者と相談し、別の医師の先生に画像鑑定書作成を依頼することになりました。この鑑定医の先生も、右上腕骨大結節骨折が認められ、骨折部が転位(てんい:ずれがあるという意味です。)している旨鑑定されました。左肩については骨折後の変形癒合が認められるという鑑定内容でした。
この鑑定書もあわせて自賠責保険に提出しました。
結果は、くびの痛みの後遺障害14級9号が認定されたにとどまりりました。自賠責保険は、右上腕骨大結節骨折が交通事故で受傷したことは認めてくれましたが、両肩は、骨折後の骨癒合が良好に得られているということで後遺障害非該当の判断でした。
※実際にはもう一部位に後遺障害14級9号が認定されましたが、ここでは省略いたします。
●1度目の異議申し立て
被害者と相談のうえ、以下の準備をして再度申請しました。
・被害者は別の病院で診察を受け、肩を診てもらい、両肩のMRI検査を受けられました。
・上記MRI検査を踏まえ、さらに別の医師の先生にも両肩の症状・状態に関する医学的意見書を作成していただき、これを提出しました。
この意見書でも、両肩には骨折後の変形癒合、変形治癒が認められ、両肩関節可動域制限の医学的原因が存在するという内容でした。
・事故時、勤務美容師をしていた被害者の仕事上の支障について、親族にお客のモデルになっていただき、動画を撮影しました。
結果は、右肩の痛みについて追加で後遺障害14級9号が認定されたにとどまりました。
両肩の骨折について、自賠責は、骨癒合が良好であるという結論は変えませんでした。
事故当日に確定診断をされた左肩付近の骨折については痛みが残った後遺障害等級すら認定されませんでした。
●2度目の異議申し立て
さらに被害者と相談をし、被害者は、肩のMRI検査をしていただいた病院で、さらに両肩のCT検査を受けることになりました。
弁護士から見ても、左鎖骨遠位部と右上腕骨大結節部の骨折後には変形があると見えるような画像でした。
このCTを提出しましたが、結論が変わりませんでした。
裁判(訴訟)提起
被害者は、両肩に痛みがあり、十分に動かず、事故前にできていた仕事ができない状態が続いていました。
この自賠責の後遺障害等級結果に不服は解消されず、裁判で正当な等級を求めていく方針となりました。
裁判の結果…併合11級が認定され、これを前提とした損害額が認定されました
裁判では、自賠責へ提出した資料は全て提出し、加えて、両肩CT画像も踏まえ、さらに別の医師の先生に医学的意見書を作成していただき、提出しました。
この意見書では、左肩骨折部の変形癒合が認められ、この変形のために肩の正常な動きが制限されている旨、右肩も骨折後の転位(ずれ)が認められ、肩峰下インピンジメントによる可動域制限が認められる旨の内容が記載されていました。
●裁判の判決は以下のとおりです。
左肩関節機能障害(可動域制限)…12級相当の後遺症と見ることができる。
右肩関節機能障害(可動域制限)…12級相当の後遺症と見ることができる。
併せると11級相当の後遺障害が残存したと認めるのが相当である。
※右肩の可動域は数値上2分の1以下に制限されており、数字上は10級のレベルでしたが、判決では、全記録を精査して、右肩の可動域制限が10級の認定条件である「著しい」とまではいえるか判然としないとして、10級までは認定されませんでした。
損害額について、以下、かんたんに説明をいたします。
●後遺障害逸失利益という損害について
基礎収入…被害者は勤務美容師で、事故直前の年収は200万円弱でしたが、事故後に被害者が管理美容師の資格を取得したことやキャリアを重ねると将来さらに多額の収入が見込まれたであろうという理由で基礎収入(年収)を300万円と認定されました。
労働能力喪失率…11級の標準喪失率である20%が認定されました。
労働能力喪失期間…被害者は裁判中に本件事故が原因で美容師の仕事を退職せざるを得なくなりましたので、この点も主張し、就労可能年齢(67歳)までの期間に基づく数字が認定されました。
●後遺障害慰謝料という損害について
後遺障害11級の関西の裁判基準は400万円、東京の裁判基準でも420万円なのですが、本件では450万円と認定されました。
●過失割合…この事故状況からは基本過失割合はバイク15%、車85%になるのですが、車側がやや早回り右折と評価できることや物損がバイク10%で示談されていたことからバイク(被害者)10%、車90%と認定されました。
判決は、被害者が1366万円(千円以下省略いたします。)とこれに対する3年あまりの遅延損害金を支払えという内容でした。
この地裁判決は確定しました。
ひとこと
本件は病院で骨折の見落としがあったケースでしたが、開業整形外科医の先生を除いても3人の医師の先生が右肩が骨折しているという意見をされ、かつ、画像上、肩関節の可動域制限の医学的原因があるという意見をされ、何とか上記のとおりの結果に至ることになりました。
被害者も弁護士もできる努力は全てしたというケースです。