交通事故で保険が使える場合

 

もし保険制度が何もないと、交通事故にあった被害者はどうなるか?

 

車やバイクなどの物損に加え、ケガをした場合の治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害関係損害などは加害者の財布から支払ってもらう必要があります。

 

しかし、加害者に支払えるだけの資金がなければ、いくら裁判で支払ってもらう判決をもらったとしても、その分の回収はできません。加害者が会社の従業員であり、その業務を行っている際の事故であれば、会社に対して請求することは可能ですが、会社にこれら物やケガの損害を支払える資金があるとは限りません。

 

被害者がこのような不当な不利益を受けないよう、様々な保険制度があります。

 

以下、交通事故発生からの流れにしたがって保険の説明をしていきます。同じ保険のことを何度も説明することになりますがご容赦ください。

 

 

交通事故発生時に意識していただきたい保険(被害者に車、バイク、自転車などの損害があり、ケガもした場合)

 

●加害者側が加入している任意保険

対物賠償保険(加害者側の保険から被害者の物損の賠償をするための保険です)

対人賠償保険(加害者側の保険から被害者のケガの損害を賠償をするための保険です)

 

被害者は、まず、加害者側が任意保険に加入しているかどうか確認してください。加害者側に任意保険がついていれば、以下のような物損・人損の対応になります。

物損については、各物品の金額的評価を決め(物品によっては修理費になるケースもあります。)、それについて加害者側の過失割合分をこの任意保険により支払われることになります(話し合いがスムーズにいかないこともあります。)。

人損については、加害者側任意保険会社が治療費を医療機関に直接支払うことに応じた場合(これを「任意一括対応」といいます。)、治療費を医療機関に直接支払うことになります(ただし、任意一括対応の終了時期がいつになるかはケースバイケースです。)。

 

加害者側任意保険会社が任意一括対応に応じた場合、被害者側に過失があっても医療機関への支払いは過失分を引いたりはしません(最終示談でこの分を調整していくことになります。)。

 

 

●事故時の車両の時価<修理費用となった場合の加害者側加入任意保険の特約

対物超過特約

車両の損害は、事故時の車両の時価と修理費用のうち、低い方が損害額になり、事故時の車両の時価<修理費用であれば全損(ぜんそん)となり、事故時の車両の時価が損害額になります。しかし、この対物超過特約が加害者側の任意保険についていれば、一定の条件があり、かつ、一定の限度額がありますが、事故時の車両の時価を超える部分をカバーできることになります。

 

 

●被害者側が加入している保険

車両保険

被害者側が加入している保険に車両保険がついてれば、この保険の使用も検討することがあります。ただし、この保険を使うと次回の支払保険料が高くなると思われますので、使用した場合にどのくらい保険料が高くなるのか加入保険会社に確認した方がいいでしょう。

 

 

●交通事故で負傷した労働者の方へ

労災保険

民間企業の労働者の方は、業務中に交通事故の被害にあった場合、又は、通勤中に交通事故の被害にあった場合は、労災保険の適用があります。

労災保険の適用があれば(手続をして支給決定をもらう必要があり、時間がかかりますが。)労災保険から治療費(療養給付)の支払いがなされます。

被害者としては、加害者側任意保険会社が治療費を直接医療機関に支払うことに応じた場合であり、かつ労災保険も使える場合には、最初の段階で、どちらに治療費の支払いをしてもらうかをよく考える必要があります。

自由診療(=ここでは健康保険を使わない診療とだけ述べておきます。)の診療単価が12円を超える場合に治療費が安くおさえられることや、被害者に過失がある場合でも労災からの治療費の支払済み額の被害者過失分は休業損害や慰謝料からは引けないというメリットが労災にあります。

労災保険で治療費を支払ってもらうかどうかを迷われた場合には当事務所にご相談ください。

ただし、いったん加害者側の任意保険が先行して治療費の支払をした後に、労災保険に治療費の支払いを求めて申請をしても、おそらく不支給決定がくだされ、支払ってもらえないと思います。

 

 

●交通事故の負傷で使える

健康保険

被害者が入院しなければならないケガをした場合、加害者側任意保険会社が健康保険を使用してほしいと依頼してくることが多いです。

この場合、損害賠償問題の面では特にデメリットはありませんので、基本的には使用に応じる方向で進めていいと思います(被害者側にも過失がある場合、健康保険を使用した方が、後に受領できる損害賠償額の目減りを減らすことができるというメリットがあります。)。

 

健康保険を使用する場合、治療費は、患者(被保険者)負担分(6歳から69歳までの人は3割分を負担することになります。)と保険者(全国健康保険協会など)負担分(被保険者負担分除いた割合を負担します)に分かれますが、保険者は保険者負担分につき、法律上、加害者側に埋め合わせを求めることができますので(ただし過失割合は問題になります。)、この権利を使えますよというアナウンス、つまり、患者から保険者に対し「第三者行為による傷病届」という書類を出す必要があります。

 

また、患者負担分について、加害者側任意保険会社が直接医療機関に支払ってくれるのか、入院先の医療機関もこのような直接払いに応じてくれるのかを確認しておく必要がありますし、退院後もこの医療機関に通院する場合、患者負担分を加害者側任意保険会社が直接医療機関に支払ってくれるのか、入院先の医療機関もこのような直接払いに応じてくれるのかを確認しておく必要があります。

 

なお、労災保険の適用がある場合は健康保険を使うことはできませんのでご注意ください。

 

 

●加害者側の任意保険会社が医療機関への治療費の支払いを拒んだ場合

加害者本人が医療機関への治療費の支払いをしない意思を任意保険会社に示したり、被害者側の過失が多くなると加害者側の任意保険会社が判断した場合、加害者側の任意保険会社が医療機関への治療費の支払いを拒みます。

この場合、以下の方法が使えるかどうか検討してみましょう。

 

労災保険

民間企業の労働者の方で業務中か通勤中に交通事故の被害にあった場合は、労災保険の申請を検討しましょう。

 

人身傷害保険特約(被害者が加入している自動車任意保険です)

被害者側に任意保険加入があり、人身傷害保険特約がついている場合、これにより治療費の支払いをしてくれる可能性がありますので確認してみてください。

この場合、おそらく健康保険を使用しての治療になると思います。

 

(事故発生時に対応するものではありませんが)加害者側自賠責保険への請求

加害者側が車、バイク(原付も含みます)などに乗っていた場合、相手方は自賠責保険に加入しているはずですので、自賠責保険に対し治療費用の支払いを求めて請求するという方法が考えられます。

ただ、上記労災保険や人身傷害保険特約がない場合に検討することになると思われます。

自賠責保険では、こちらの過失がかなり大きいと重過失減額をされたり、軽微事故等で受傷を否定された場合には支払いがなされない判断が下されたりする難点があります。

 

 

 

●加害者が任意保険に加入していなかった場合

加害者は自賠責保険に加入しているはずですので(自賠責保険の加入すらないケースというのもあるのですが。)、害者の自賠責保険に請求する方法がありますが、以下のような事情はないでしょうか。

 

人身傷害保険特約

被害者側に任意保険加入があり人身傷害保険特約がついている場合、これにより治療費の支払いをしてくれる可能性がありますので確認してみてください。

 

無保険者傷害保険

(事故発生時に対応するものではありませんが。)被害者がお亡くなりになった場合や後遺障害が残って等級が認定された場合、被害者ご自身に任意保険加入があり無保険者傷害保険がある場合(加害者側に任意保険加入があっても免責事由があって使えない場合にも適用されます。)、この保険を使用することにより最終的に裁判基準での保険金の支払いをしてくれる可能性があります(ただし、裁判基準ではなく人身傷害保険の基準でしか対応しない損害保険会社もあります。)。

 

 

 

●交通事故で被害を受けたけど、こちらの過失がゼロにならず、かつ、加害者側にも物の損害があり、加害者からの請求を受けて立つ場合

物損なので自賠責保険は使えません。

個人賠償責任保険(自動車保険や火災保険を確認してみましょう)があり、適用があれば、この保険で相手に対する請求の対応をしてくれます。

 

 

●交通事故で被害を受け、こちらの過失が少ないがゼロにはならず、かつ、加害者側にもケガの損害があり、加害者からの請求を受けて立つ場合

加害者は、被害者が加入している自賠責保険に請求するか、加害者側の任意保険の特約で対応してもらうことが考えられます。

こちらの過失の方が少なく、こちらが車、バイク(原付も含みます)などに乗っていた場合には、加害者本人又は加害者に支払った加害者加入任意保険会社が、こちらが加入している自賠責保険へ手続をすることで終了するケースが多いと思います。自賠責保険を超えると主張してこられた場合には、被害者が加入している任意保険の対人賠償による対応の問題になる可能性があります。

こちらが自転車に乗っていた場合(こちらの自賠責保険の適用がない場合)、個人賠償責任保険(火災保険や、車もお持ちなら自動車保険などを確認してみましょう)があり、適用があれば、この保険で相手に対する請求の対応をしてくれます。

 

 

 

治療中に意識しておいていただきたい保険

 

加害者側加入任意保険

まずは、治療費の一括対応がされているでしょうか。

 

搭乗者傷害保険

契約している車に乗っているときに交通事故にあい、人身損害を受けた場合、被害者側加入任意保険に搭乗者傷害保険がついており適用があれば、一定金額が被害者に支払われます。いわば「お見舞い金」の性質のようなものです。契約内容によっては後遺障害が認定されたら支払われるものもあります。

おそらく契約している保険会社担当から搭乗者傷害保険についての連絡があると思いますのでそれほど神経質になる必要はないと思います。

搭乗者傷害保険による保険金の支払いがあったことだけを理由に、加害者から支払われる損害賠償金は減額されません。

 

生命保険医療保険に加入されている場合

入院給付金、手術給付金などで保険金を支払ってもらえる可能性がありますので、保険の加入と給付をしてもらえるかどうかを確認しておいた方がよいでしょう。

 

労災保険の休業給付

民間企業の労働者の方で業務中か通勤中に交通事故の被害にあってケガをしたために労働ができなかったことで賃金を受けることができなかった場合、労災保険から休業給付(業務災害の場合は「休業補償給付」という呼び名になります。)が支給されます。

休業給付は休業4日目から支給され、給付基礎日額の6割が支給されます。

 

加害者側加入任意保険会社から支払われる休業損害との二重取りはできません。

もし、被害者過失ゼロの交通事故にあい負傷して休業して給与の支払いがなかった場合、加害者側加入任意保険会社に10割分の請求をする方法と、加害者側加入任意保険会社に4割、労災保険に6割を請求する方法があります。

ただし、労災保険は手続に時間がかかり手元に入金されるまでかなり時間がかかると思っていただいた方がいいでしょう。

いずれの方法で請求するにしても、最終的には適切な計算方法で計算した金額に少しでも足りていない場合は(このよなケースもありえます。)、最後に足りていない分を加害者側に請求することに注意する必要があります。

ただし、最終示談前にこれら損害名目で内払いを受けても最終的に複雑な整理をしなければならないケースも発生します。

休業給付による支払は、労働関係損害(休業損害、後遺障害逸失利益)の費目からしか引けないというしばり(費目拘束)があります。

 

労災保険の休業特別支給金

労災保険にはほかに被害者にとって大きなメリットがある制度があります。特別支給金という実質見舞金のような支給金のことです。

先ほど述べた労災保険の休業給付の条件を満たす場合、特別支給金の支払いも認められ、給付基礎日額の2割分が別途支給されます。

しかもこの特別支給金をもらったからといってこのもらった分は加害者が被害者に支払うべき賠償金から引かれません。

 

健康保険の傷病手当金についてはここでは省略いたします。

 

 

 

 

後遺障害の等級との関係で意識しておいていただきたい保険

 

自賠責保険の後遺障害等級認定制度

交通事故で負傷し、治療を続けても医学的に見てそれ以上改善の見込みがない状態に達し(これを「症状固定」の状態といいます。)、症状や状態が残った場合、後遺障害等級認定の問題が出てきます。これは自賠責保険がからんできます。

 

弁護士に依頼されていない場合、加害者側加入任意保険会社が窓口になって自賠責保険に対し後遺障害等級認定の申し出をすること(この手続を「事前認定」といいます。)がほとんどだと思います。当法律事務所が後遺障害申請を代理する場合、よほど特段の事情がない限り自賠責保険会社に直接申請をします(これを「被害者請求」や「(自賠法)16条請求」などといいます。)。

 

1級から14級までの後遺障害等級が認定された場合、すぐ自賠責保険から等級ごとに決まった金額(ただし、事情により金額に修正がされる場合もあります。)が支払われます。

 

労災保険の障害(補償)給付制度

民間企業の労働者の方で業務中か通勤中に交通事故の被害にあってケガをし、症状固定となり症状や状態が残った場合、自賠責保険とほぼ同じような後遺障害認定制度があります。通勤中の事故の場合は「障害給付」、業務中の事故の場合は「障害補償給付」といいます。

障害(補償)給付は、1級から7級までは年金型の支給(毎年支給されることになりますが、自賠責保険も等級が認定されると一定期間支給停止になることがあります。)、8級から14級までは一時金型の支給になります。

 

同一の事故かつ同一被害者のケースで、自賠責保険でも労災保険でも後遺障害等級が認定された場合には、二重取り防止のため、支給が調整されるという問題が生じます。

 

自賠責保険の後遺障害申請と労災保険の障害(補償)給付の申請のうちいずれを先行させるかについて、個々の事案ごとにどちらを先行させるかを考えていかなければならないというのが弁護士金田の意見です。

 

自賠責保険でも労災保険でも後遺障害等級が認定され、それぞれからお金が支払われた場合、その後の加害者側任意保険会社との最終賠償示談交渉では、これらの支払いは引いて計算することになります。

 

ただし、労災保険の障害(補償)給付による支払は、労働関係損害(休業損害、後遺障害逸失利益)の費目からしか引けないというしばり(費目拘束)があります。

 

労災保険の障害特別支給金

労災保険にはほかに被害者にとって大きなメリットがある制度があります。特別支給金という実質見舞金のような支給金のことです。特別支給金の申請をしておき、障害(補償)給付の等級が認定されると等級に応じたお金が支払われます。

この特別支給金をもらっても、このもらった分は加害者が被害者に支払うべき賠償金から引かれません。

 

 

障害基礎年金、障害厚生年金

交通事故で負傷したことにより生活や仕事に制限が生じた場合に、一定の条件をみたす必要がありますが、現役世代の方でも受け取ることができるものに障害年金というものがあります。

初診時に国民年金加入の場合は障害基礎年金、厚生年金加入の場合は障害厚生年金になります。

障害基礎年金には1級と2級が、障害厚生年金には1級から3級までの等級がありますが、かなり重い障害が対象になっています。

ただし、交通事故の加害者側から損害賠償の支払いを受ける前にこれら障害年金の支払を受けている場合、損害賠償額から差し引かれます(もっとも、差し引かれる部分には限りがありますが、くわしくは当法律事務所でのご相談で説明いたします。)。

 

 

 

事故から最終交渉まで通じてご留意いただきたい点…弁護士費用特約

弁護士費用特約

 

被害者側が加入している自動車保険に弁護士費用特約がついているかどうかをご確認ください。

 

弁護士費用の上限額(着手金、報酬、実費もあわせて上限300万円の保険商品が多いですが。)はありますが、この限度では弁護士費用の持ち出しを考えなくていいことになりますし、相手方との交渉の窓口は弁護士が行うことになりますので、被害者は日常生活や治療に集中できるといえます。

 

契約している本人だけでなく、同居の親族別居で未婚の子(婚歴のある方は除かれます。)の立場の方にも適用があります。

 

持ち家の火災保険や借家にお住まいの方を対象にした火災保険に弁護士費用特約がついている場合もあります。

 

 

 

さいごに

交通事故使える保険でお悩みの方は当法律事務所にご相談ください。